本当の夢というものはとても曖昧で、手が届かないからこそ語れるのだと、彼女は微動だにもせずそう言った。

僕にしか聞こえない程度の、小さく掠れた声だった。



鉛筆が画用紙に擦られる音だけが響いている。

その中で僕は上げていた腕を下ろして、思わず彼女を直視した。

身体に何も身につけていない彼女は、数十分前と変わらず、ただ前を向いて直立している。

視線さえも、僕の方を向いた気配は、無い。


それから僕は鉛筆を持ち上げることもせず彼女のことを見ていたけれど、口が開くこともなければ目が合うこともなかった。



甲高い機械音が僕の集中を切断した時、ようやく、あれは幻聴だったのだと気が付いた。

はっとして目の前の画用紙を見れば、そこには未だ人間とは言い難い形が描かれていた。

鉛筆の音に人の声が混ざる。

再度、僕は彼女のいた方向を見たけれど、彼女はもうすでにそこにはいなかった。



「それ、多分時間内に終わらないね」



突如として聞こえた友人の言葉を、僕は表情を変えないまま肯定した。


きっと今の自分には彼女を描いてあげることは出来ないのだろうと、僕は床の染みを視界に埋めた。






11.11.13






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