彼女は使い古したパソコンのような人だった。

機嫌がいい時は起動音を潔く鳴らす癖して、悪い時は起動音が鳴るどころかそこに辿り着くまでにロードが長い。

やっと起動したかと思えば動きは遅いわフリーズするわで、まさに彼女はじゃじゃ馬の上を行くような奴だと言える。

けれども、マウスを新しくしてみたり、たまにデータ内を整理してやると、普通どころか調子に乗ってウイルスを退治してくれたりする。

扱い難いが、稀に出る素直さが彼女の可愛いところの一つだ。



この間、たまたま彼女に水がこぼされてしまった所を目撃した。

これまでの彼女なら、いつもよりも機嫌を悪くし、一部データを紛失させてから勝手にシャットダウンさせ、次の起動の際は二時間以上待たせ続けた上にフリーズするという復讐を果たすだろう。

けれどこの時の彼女は、フリーズするわけでも、シャットダウンするわけでもなく、ただひたすら誰かからか頼まれたインストールを実行し続けていた。

相手が急いで彼女の水を拭いている中、インストールし終わったらしい彼女から、静かに電源を切る音が聞こえた。






10.08.**






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