彼は着物が似合う人でした。

物静かで口数も少なく、今振り返ると会話もあまりしなかったようにも思います。

けれど、彼との間に流れる沈黙は全く苦ではなく、寧ろ心地の良いものでした。

仕事休みとなれば、ただ一日中側に居てくれた彼に、礼として甘味を作ってあげたこともありました。

外見ではいつも難しい顔をしている癖に甘いものを好む方でしたから、目一杯の餡を詰めた饅頭を頬張っている彼を見たときはあまりの可愛さに吹き出してしまいました。



誰かが泣いている時に、一等慰めるのが上手いのも彼でした。

外見がああでしたから、近所の子供達に逃げられては落ち込んでいたのを良く覚えています。

ですが、転んで泣いている子を見つけては静かに近づき、あの大きく優しい手で撫でてあげる彼の背中を見た時は、何故か私が泣き出してしまいたくなるような、そんな衝動にさえ駆られてしまったのです。



そんな彼にも意外なところがありまして、私の誕生日なんかが近づいて参りますと、こそこそと書斎で何かを作り始めるのです。

毎年のことでしたので私は分かってはいたのですが、あまり手先が器用ではない彼が頑張ってくれている姿を見てしまうと、まるで初めての誕生日を迎える時のように嬉しくなってしまうのです。


彼から貰った少し歪な簪を髪に付けつつ、今日も彼の側に私はありたいと思います。






10.08.**






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