※お姉さん





手を握って、と蚊の鳴くような声で窓の外を見たまま、姉さんは言った。

それに僕はゆっくりと瞬きをしてから、布団に投げ出されていた姉さんの左手を、静かに拾い上げた。

白く骨張った彼女の手は、この薄暗い空間の中では、今にも自分の手の中から消えてしまいそうに見えた。

ベッドに横たわっている姉さんは僕に目線を寄越さずに、小さく手を握り返してくる。

窓から入り込んでくる微かな光を浴びながら、姉さんは右手でもう十分に膨らんだ自身の腹をさすった。

痛むの、と僕は訊ねた。姉さんはやはり僕を見ずに、ちょっとね、と返した。

僕たちしかいない室内に、誰かの泣き声が遠くの方から届く。

姉さんの手の力が、少し強くなった気がした。



もうそろそろだね、と僕は微笑しながら呟いて、腹をさすっていた姉さんの手に自身の手を重ねる。

その時初めて、姉さんが僕に目を向けた。

そしてそのまま自分の腹を見て、そうだね、と口角を上げて返答した。

微かな光は少しずれて、僕と姉さんの手が乗った腹を照らしている。

僕は窓の外へと目を向けた。


もう少しで満月になりそうな月は静かに彼女の腹の中を見つめていた。





12,01,06
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