二人して雨に濡れながら歩いた路地は、思ったより煌々と美しくて、不意に私は口に含んだ飴玉を小雨に晒したくなった。

冷たい水と甘い飴と唾液とが、自身の舌によって絡み合い、そのまま私の喉を通過する。

喉が上下する。

ごくりと喉が鳴る。

生々しい音は小雨に紛れる。

平太の目線が、私の喉を、刺した。

美味しいの、と彼は私に訊ねた。

やる気の無い、けれども関心のある、彼特有の低声で、優しく、優しく。訊ねた。

不思議な味がする、と私は返した。

抑揚のある、けれども興味のない、私独自の高声で、優しく、優しく。返答した。

その直後、狭い路地の真ん中で、自然と平太が足を止めたものだから、続いて私も彼の隣りに止まる。

ややあ、と平太を見上げれば、いつの間にか、彼の視線の先は私の眼球へと移動していた。

食い入るように、見定めるように、煌々とその眼の奥を輝かせて、ゆっくりと平太は、私の目蓋に接吻をした。

右へ、左へ。

また、右へ。

雨が地面に吸い込まれる音と、彼の唇を離す音が、鼓膜を掠る。

色のついた吐息が彼の口から吐き出されたのと同時に、私は一度だけ、彼の名前を呟いた。



平、太。



一瞬、彼の動きが止まる。

再度、目線が交わる。

男性にしてはやや白い頬に、一筋の雨が走っていく。

そして、次に私が瞬きした時には、平太の微笑が視界に埋まっていて、私たちはそのまま、音もなく唇を重ね合わせた。


彼は、優しかった。


強制も無く、抑制も無く、啄むようにして、彼は数回、唇を離しては吸いつく。

それに飴の甘さと、雰囲気の甘さが交差して、私は酷く切なくなった。

まるで、平太に心臓を撫でられているかのような、錯覚。

しばらくの間それを感受していれば、彼の濡れた唇から温かい舌が差し出されて、私の口内に侵入した。

反射的に、私は目を閉じた。

雨の音よりも、彼の息遣いの方を耳は拾い上げる。

歯をなぞる平太のそれが、私の飴玉を探し当てたところで、彼はおもむろ私の右手首を掴んだ。

ああ、これは、と。

私は確信する。

瞬時に後ろへ下がろうとすれば、手首を強めに握られて逆に引き寄せられる。

その勢いで、私の口に入っていた飴玉は、するりと平太の舌に絡め取られた。

僅かに残る甘さだけを残して、彼は静かに私から顔を離す。

それから、何事もなかったかのように手首から私の手のひらを握って、彼は再び歩き出す。



甘いねえ、と彼は呟いた。



うん、甘いね、と私も彼の横についてから、一言、呟いた。






11.05.01
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