short のコピー | ナノ






「なぁなぁ、宮やったらバレンタイン何貰ったら嬉しい?」



とある昼休み。バレンタインでもある今日、友チョコを持ち寄ってクラスの女子がわいわいしてる中で何人かの男子にそんなに質問してたっけ。その流れで双子にも聞いてたんよな。

たまたま同じ教室におった侑くんはうーんってめっちゃ悩んどったし、色んなチョコのお菓子の名前並べとった。まぁその並べた名前全部今日貰っとったんやろけど。治くんは特に興味無さそうにおにぎり食べて角名くんと喋ってたっけ。



「サム、お前やったら何が嬉しい?」
「飯」
「は?」
「チョコもええけど、俺は飯がええ」



治くんらしい答えやと思った。クラスの子はみんな笑っとったし侑くんもサムは変わりモンやなぁとか言うてたけど、治くんはウケ狙いとかそんなんやなくて純粋にご飯が好きなんよな。


二年なってから治くんのこと初めて知った。
一年の時は侑くんと同じクラスやったから最初また同じなんやと思ったけど侑くんにしては大人しいし彼が片割れの治くんかーってわかった。
女子にチヤホヤされて笑顔振りまく侑くんとは反対に特に反応せん治くん。授業中も喋ってばっかの侑くんとは反対に寝てばっかの治くん(授業ちゃんと受けへんのは一緒)

でもそんな大人しい基本無表情で謎が多い治くんにも可愛いとこあるねん。
それがご飯食べてるとき。お昼休み前とかはそわそわし始めて、チャイム鳴って礼したらすぐお弁当とかおにぎり出して角名くんが来るの待たんと食べ始めてる。それも幸せそうな顔で。



「なぁ、今日のおかず何入ってるん?」



いつやったか席が近かったとき、静かにひとりでお弁当食べてたら治くんに話しかけられた。たぶんそれが初めて喋ったんとちゃうかなぁ。



「えっ…と、卵焼きと唐揚げと…」
「唐揚げちょーだい」
「え?」
「いつも美味そうやなって思っててん」



それからちょくちょく私のお弁当を覗きに来てはこれちょーだいとかあれ食べたいとか色々言うてくるようになった。それまでは自分のためだけに適当に作ってたおかずも治くんが頻繁に食べるもんやから、毎朝気合い入れて飽きひんように毎日違うおかず作って入れたり。
気付いた頃には治くんに食べてもらうためにお弁当作るようになってた。つまり、私は治くんのことを好きになってしまってた。



「なぁ」



ボーッと今までのことを振り返りながら遠目に治くんを眺めてたら本人が私に気付いて声掛けてきた。
ちょっとびっくりしたけどたぶん私のお弁当目当てやろ。前の席の椅子こっち向けて座る治くんは頬杖つきながらじっと見てくるから、慌ててお弁当見せてどれがいい?って聞いた。

無言で卵焼きに手を伸ばした治くんやったけど、途中で手を止めてまた私のこと見てくるからどうしたんやろって首傾げた。



「卵焼きってな」
「うん?」
「こうやって斜めに切ってな」
「う、うん」
「こう並べたらな」
「…!」



突然私のフォークを取ったかと思えばお弁当の蓋に卵焼きを置いて斜めに切った。なんのことかわからんくてその行動を見ながら言葉に耳を傾けてて、並び方を変えたときに理解した。

卵焼きが、ハートの形しとる。可愛い。
こんな技あったんや、知らんかった。驚きと感動とで思わず「ほあ〜」なんて変な声を出しながら笑う私を見て治くんはちょっとだけ口角を上げてた。



「すごいなぁ、治くんこんなん知ってんの」
「おかんが昨日見とったテレビでやっててん」
「バレンタイン特集かなんかやったん?」
「おん。チョコより飯のがええなって尚更思ったわ」



ほら、やっぱり治くんはそういう人。
ご飯の話のとき、ご飯食べてるとき。ほんまに幸せそうに笑うんよ。思わずどきりと跳ねる心臓。胸に手を当てて少しだけ熱の集まった頬を隠すように俯いてせやな、とだけ返事した。

俯かせた視線の中にスっと伸ばされたフォーク。
受け取ってから私もお弁当の続きを食べようかと思った矢先、治くんが口を開けて待っているというなんとも有り得ない事態が起きていることに気づいた。



「…へっ!?」
「あー」
「えっ、はっ…うぇ!?」
「なんやそない驚くことかいな」
「そりゃ驚くやろ!」



普段から眠たそうな目とばっちり視線が交わって余計に恥ずかしなった。
視線逸らしてまた俯いてたら頭にぽんぽんと大きい手が置かれる。ただでさえ心臓うるさいのに、やめてや。
そんな意味込めて睨もうと顔上げても治くんは微笑んでて睨めるわけなかった。



「なんやサム、お前名前ちゃんに胃袋でも掴まれたんか?」



離れたとこで女子と喋っとった侑くんが私の隣の席に座って茶化すから顔が爆発するんちゃうかってぐらい熱くなった。違うわって否定しようとしたんやけど、治くんは特に表情変えることもないし手を退ける様子もなく侑くん見て口開いた。



「おん、そやで」
「………はっ!?」
「俺、名前の飯が一番好き」



はっきりとした口調でそう言う治くんは私見てニヤって笑った。あ、それ卑怯やわ。
どう反応してええんかわからんままポカンとしとったら侑くんは俺邪魔やなーって言いながらまたどっか行った。
え、この空気どないしてくれるん。私、どうしたらええん。

ひとりで心臓バックバクさせながら治くんのこと恐る恐る見たらびっくりするほど優しい顔してて、やっぱこの人のこと好きやなって思った。



「俺、名前のこと好きやで。弁当以外でも可愛いなって思っとった」
「待って待って待って、頭追いつかれへん。なんで?いつから?え?」
「なんでもいつからでもええやん」



今度は面白そうに笑った治くんが、さっきハート型にするために半分に切った卵焼きをフォークで刺して私にそれを向ける。



「俺のためにこれからも飯作ってや」



治くん、それもう告白通り越してプロポーズやで。
自惚れにも近いツッコミを心の中でして差し出された卵焼きを私は赤いほっぺたのまんま食べた。

いつもよりちょっと甘いんはたぶんバレンタインやからかな。

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