攻略まとめにも載ってない | ナノ






孤爪くんに挨拶をし、授業の合間にたまに話しかける。基本は私が質問をして孤爪くんが答える。時々、苗字さんは?と聞き返してくれたりする様子を見ていると少しずつ心は開いてくれているみたい。



「名前って孤爪くん?と仲良いの?」
「仲良しだよ。親友になる予定だもん」
「ふーん。彼変わってるのに話すことあるの?」



そうだね、私にはたーくさんあるけどあなたにはないかも。
この質問は最近よく色んな人から受けるようになった。ついこの間なんか担任にも同じことを聞かれた。だから先程の答えを心の中で唱えながら表面上ではまぁね、と短く返すだけ。

話すことなんていくらでもあるよ。
でも君たちの言いたいこともわかる。だって私と孤爪くんはほぼ正反対。人の目を極力避けたい孤爪くんと目立つことは得意な私。他人と自分との間に壁を作る癖のある孤爪くんと社交的で良い顔ばかりしてる私。



(ほら。私たち半分こだ)



だからこそ攻略してみたくなった。興味が湧いたとでも言うのかな。まぁそんなことはどうでもいいの。次はどうやって孤爪くんとの距離をもっと縮めるかの方が私には大事。



「名前、ごめん!今日委員会の仕事が入ったからお昼一緒に食べれないの」
「そっかぁ。わかったよ」



いつも一緒にお昼を食べてる図書委員の女の子に謝られたけどにっこり笑って大丈夫、と返す。
名前は湯川さん。下の名前はあんまり呼ばないから覚えてないや。
良い顔したがりの私は誰にだって笑顔を振りまくし誰とでも仲良くしようとする。そうして八方美人になってる内に孤爪くんを攻略と名付けて私の自己満の一部にしようとしてる。

最低なのはわかってるけど、別にいいでしょ。
ゲーム感覚でしかないの。ゲームが大好きな私にとって、生きること自体が"ゲーム"でしかない。



「おい研磨、お前昼飯は?」



どうでもいいことを考えながら昼休みになったにも関わらずぼーっと窓の外を見ていると突然そんな声が聞こえてきた。

ふと前を見ると丸まった背中と黒髪の背の高い先輩。今日は先輩と食べるんだ、なんて考えながら私もお弁当を食べようとカバンを漁る。



「今日は持ってきてる」
「おーそうか。今日山本も福永も俺も委員会だから見張りはいねーけどちゃんと食うんだぞ」
「…そんなこと言われなくても食べるよ」



心底めんどくさそうに答える孤爪くんの声と心配そうにしながらもそそくさと教室から出ていく先輩。
孤爪くんはひとつため息を零して立ち上がり、よく行く静かな空間にでも向かうんだろうなって思った。

と、ここで私は思いつく。



「孤爪くん、一緒してもいい?」









「いただきます」



手を合わせて膝の上に広げたお弁当を持ち上げ、卵焼きを一口食べる。うん、今日の味付けはバッチリだ。満足気にもぐもぐと食べる私をじっと見つめる視線一つ。

私の誘いというかお願いに孤爪くんは少し戸惑ったあと、いいよと答えてくれた。なので一緒に孤爪くんがひとりのときか福永くんとふたりのときに訪れるという中庭の端っこへと付いてきたのだ。(尚、山本くん?がいるときはうるさいから連れてこないらしい)



「どうかした?」
「苗字さん、食べ方綺麗だよね」
「あー、そう?うち作法とかにうるさいからさ」



ふーん?と相槌を打ちながら首を傾げるもそれ以上聞いてこない様子からするに他人の壁を自ら壊すようなことはしてこないらしい。まぁ、前々からそれはわかってたことだけど。

それにしても孤爪くんの目は綺麗だ。人の目を気にするあまり人をよく観察するようになった目。猫に似たビー玉みたいな目に見つめられると思わず愛でたくなる。



「ねぇ、それ全部食べられるの?」
「えっ…なんで」
「孤爪くんって少食でしょ?それなのに惣菜パン3つも無理じゃない?」



私がさらりとそう言うと孤爪くんはパチパチと瞬きを繰り返した。あ、なるほど。私が孤爪くんのことすっごく見てるってことがバレてもおかしくないような発言だったよね、今の。
やってしまったなーなんて心の中で思っていれば、孤爪くんはふいと目線を逸らしてパンの袋をひとつ開けた。



「…全部食べられるときと食べられないときがある、かな」



ぼそりと呟くように放たれた言葉に私はお箸を止めた。もそもそとコロッケパンを食べながら片手で携帯をいじるその姿はよく見かけたものと同じ。隣で孤爪くんがパン食べてる!なんて、ちょっと嬉しい。

そっか、と返事をしてまたひとつおかずを食べて携帯をさりげなく覗き込むと某有名なRPGのアプリだった。どうやら石が貯まったタイミングらしく、武器のガチャを回すところらしい。



「…ねぇ」
「えっ、何?」



後ろから覗き込まれるのは流石に不愉快だったか。そう思って頭を引っ込めたけど孤爪くんは不愉快な顔ひとつせずじっと私を見ている。



「苗字さんって、引き良い?」
「あー…どうだろ」
「引いてみてよ」



試されてる感。
ここで良いものを引けば、孤爪くんの目当ての武器を引けばきっと好感度はかなり上がる。

差し出された携帯を受け取って10回ガチャを引くボタンをタップした。少し長めのローディングに期待して開かれたガチャの画面は確定の演出。心の中でガッツポーズをした。



「目当ては?」
「クロウドの大剣」



あの誰もが憧れるやつね。
画面をタップして10個の光の玉が放たれ、ひとつずつ武器が出現していく。

1、2、3…と数えるもなかなかレアな武器が出ず、7個めで少し良さ気なのが出た。



「…あっ」
「これじゃん」



見事に10個めに孤爪くんが欲しがってた大剣が現れ、隣を見ると目をキラキラと輝かせた孤爪くんが私を見ていた。何その顔、そんな顔するの?
もっとこう、これぐらい引いて当然でしょみたいな反応をされると思ってた私はびっくりして携帯を落としそうになる。



「よかったね、これでクロウドの武器スキルも使えるしノマダンも周回サクサクじゃん」
「えっ…うん」
「どうかした?」
「…よかったねなんて、言われると思ってなかったから」



なるほど。
確かに普通の人からすれば嬉しそうな孤爪くんを見たって何が良いのかわからないのかも。
でも私もこのゲームやってるし、武器は持ってるけど孤爪くんが喜んでくれたのなら何よりだ。
最初は良いの引かなきゃ孤爪くんから見た私の印象が…なんて思ってたけど、嬉しそうな反応をしてくれたのがいちばんの満足だと思う。



(ん?)



でもそれってどうして満足に繋がるのかな。
別に孤爪くんが喜ぼうがどうなろうが、良いものを引くことに私は意味があると思ってて、好感度が上がればいいなと思っていつもの感覚で引いたはずなんだけど良いものが出たことで上がる好感度より喜んでくれる孤爪くんの方が私は嬉しいと感じたし心の底からよかったと満足したわけで…

訳が分からない。
ま、なんでもいっか。



「孤爪くん、このゲームやってる?」
「やってる」
「フレコ交換しよ」
「…いいよ」



そのあともゲームをしたり攻略の話をしたりしながらご飯を食べて私たちは昼休みの時間ギリギリまでずっと一緒にいた。



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