昔はよく人が訪れとったここも気が付いたら閑散としとってなんや湿気た場所やなって思ったんも何回目やろな。 俺らはこの湿気た神社に纏われてるお狐様。お稲荷様って呼ぶ人間が多いんちゃうやろか。と言ってもそんな偉いもんちゃうで、なんせ人こーへんし神様なんかおらんようなもんやからなここは。 「サム、暇や」 「おん。いつもやろ」 俺と同じ顔した狐、侑が賽銭箱にもたれかかったままため息ついとる。俺かて暇やわ。 手入れもしばらくされとらんこないな神社、そら誰もこんなるよな。やからと言って俺らがどうこう出来るもんやないねんけど。 「おっ、見ろサム。子連れやぞ」 「言われんでもわかるわ。散歩やろ」 「乳母車ひいとる!あれな、今どきの人間はベビーカー言うんやぞ!」 「知っとるわ、舐めんな」 たまーにこうやって神社の敷地を散歩する母親とか帰り道に走り回って帰る小学生の坊主とかおる。 それをボーッと見つめるだけ。 なんでかって?人間には俺らが見えんからや。 「おーサム、見てみろめっちゃ可愛えぞ」 「赤子なんかみんな一緒の顔しとるやんけ」 ふわりと跳ねてベビーカーに乗せられた赤子を覗くツムを横目で見ながら俺は自分の爪先を見てた。 母親は気付く様子もなく赤子に話しかけとる。まだ言葉わからんのとちゃうの。 呑気にそんなこと考えながら今日飯何にしよ、まだ木の実残っとったかなとか考えとったら。 「おっ…さむ!おさむ!!」 慌ててなんでか狐の姿になって駆け寄ってきたツムは俺の足にまとわりつく。うざ。 至極うざそうに見とったらツムはあわあわと混乱しとって尚更うざかった。 「サム!来てくれ!」 「…なんやのお前、頭おかしなった?」 「ちゃっ、ちゃうんや!ええから来いって!」 足元噛み付かれて引っ張られるもんやからほんまはめっちゃ嫌やけど付いてった。 付いてった先にはさっきの母親とベビーカーに乗ってる赤子。 何にそんな慌てたん?オバケでも見たんか?俺らもまぁまぁオバケに近いもんやぞ、とか色々考えてたけどツムがベビーカー指差すからとりあえず覗き込んでみた。 「…なんや、ただの赤子やん」 ほんまになんもない。大したなんかがあるわけでもない。可愛いから見ろってだけで呼んだんか?アホらしい。 もうええやろと離れようとしたとき、ぱちっと赤子が目開けて俺の視線と交わった。 交わった…? 「は…」 赤子はじーっと俺を見つめてキャッキャと笑いだし、手伸ばしてきよった。 なんやこいつ。俺らのこと見えんのか?んなわけあるかい。 試しに俺は人さし指を立て、ふよふよと宙に波を描いてみた。したら赤子はちゃんと指先追いかけて機嫌良さそうに笑っとる。 「…嘘やろ」 俺の呟きにサムはほんまやねんて!とかなんとか喚いとるみたいやけど俺の耳には届かんかった。 赤子はまた俺の目をじぃっと見つめるとにぱっと笑って手を伸ばしてきよった。何がおもろいねん。 「たまたまやろこんなん。鳥とか虫でもおったんちゃうか」 「えー、サムったら夢のない子ね!」 「気色悪いぞ」 赤子から離れて社の下に戻ったらツムが付いてきてぶーぶーまた喚き出した。うるさいし手刀で脳天裂いたろか思ったけどめんどいしやめといた。 赤子の笑い声に満足そうに微笑む母親の姿を横目に俺は昼寝する体制に入る。ツムは相当眠いらしくもう既に半分意識がない。 「…俺ら見える人間なんか、今までおらんかったやん」 俺の呟きにツムが反応することもなく、他の誰かが返事する訳でもなく。 ほんまに暇やなこの神社、はよちゃうとこ派遣されるようならんかなとか呑気に考えながら俺もそのまま寝てしもた。 [しおり/もどる] |