「さて問題です」 「なんや急に」 「ここに冷蔵庫があります」 「あるなぁ」 「私はこの冷蔵庫に"プリンあるから名前ちゃんも食べたらええで〜"と宮家のお母様に30分ほど前に言われました」 「おかんのモノマネすんな」 「しかーし!侑からめんどくさい電話がかかってきて対応し、戻ってきたらあらへんなっとったんです!」 「ほー、それはえらいこっちゃやな」 「…」 「…」 「……」 「……」 「………」 「…なんやの」 台所の隣、リビングでソファーに仰向けに寝転びながら月刊バリボーを読んでいる治の腹部に女子とは思えないほどの重たい拳をドスッとひとつ。 ヴッ!!なんて情けない気合いの入った声を出して治は死んだフリをし始めたので腹が立ってさらにほっぺたを伸びるところまで伸ばしてみることにした。 「いっ…!ほい、なにひほんねん」 「治はーん…洗いざらい吐いてもらいまひょかぁ…」 「へやはらおへはひらんっへ」 「なんて?」 「離せや!」 素早く私の手を掴んで逃れた治はソファーから立ち上がって構える。私も釣られて構え、じり…じり…とお互いに距離を取りながら睨み合った。 こいつ、昔っからそうや。幼馴染みの私は知っとるんやで。アンタがどんだけ食い意地張っとる男かっちゅーことを。下に落ちたコンビニのからあげチャン、3秒ルール言うて土の上に落ちたやつ食うたことも知ってr「アホか食っとらんわ捨てたわ」 「でも実際アスファルト落ちたヤツ食うとったやないの!」 「それは3秒ルール適用されるんや」 「基準わからん!ええからはよ観念してプリンのこと謝れ!ほんで新しいやつ買うてこい!」 「やからなんなんお前!俺食ってへんって」 「嘘つけー!泥棒の始まりやぞ!私のプリンどこいったんんんんん!!」 泣き真似をしながら地に伏せてそんだけ悲しんでますよと演技をすれば治はドン引き。ええねんええねん。ドン引きして謝ってはよ新しいプリン買うてきたらそれで許したる。 やからはよ「お前らなにやっとんの?」 突如嘘泣きしながら治を諦めさせたろ作戦を決行し、あともうちょいっていう私の耳に届いた声はさっきめんどくさい電話してきた奴の声。 振り返ったら部屋の入り口に侑がおって、その手にはなんとプリン。しかも双子のどっちの名前も書いとらん上に可愛らしいハートのシールが貼ってあるプリン。宮家ではな?このシールが貼ってあるんはおばちゃんが私用に置いてくれてるやつまたは買ってくれたやつなんや。 「…侑?」 「騒がしいなーおもたらお前うち来とったんかい。さっき電話したときなんで言わんの」 「ツム、お前そのプリンいつ取ってん」 「ん?これ?名前に電話しとるときにな、部屋から降りてきて見っけたさかい食うたんや」 「侑、今までありがとう」 私が投げた月刊バリボーは避けること出来んかった侑の額にクリーンヒット。しかも角な。 手から離れたプリンは治が見事キャッチ。ナイスキー。 綺麗に倒れた侑の腕引っ張って治は侑を部屋から追い出す。侑は涙目で混乱しながら大人しいして双子の部屋に戻されてった。 「侑のアホ!!私のプリン!!こんな仕打ち!!」 「落ち着け」 「いっつもあんな感じで治のプリンも食っとんのやろ。許さん!」 「なぁ」 「なんやの!私まだ怒っ…」 「俺になんか言うことあるんとちゃう?」 目が笑っとらん。やばい。 私違うって言うてる治無視してめっちゃ責めてた。なんやったら引っ張ったりなんやしたりもしとった。 治から逃げようとプリンを机に置いてソファーの陰に隠れようとしたけどさすが年頃の運動部の男の子、なんなら侑よりちょっとだけ体格デカい。そして私の何倍もデカい。逃げられるわけあらへんわ。 「あのー、治さん…?」 「なぁ名前。俺腹減った」 「えっとー…プリン食べます…?」 私の両腕を掴んでそのままソファーに押し倒され、組み敷かれ、逃げ場を失ってもうた。本気でやばい気がする。 治の目はギラギラしてて本気で捕食されそう。待って、私まだ死にたくないし幼馴染に食べられて死ぬん?それどんなニュースなんの? 「ごっ…ごめんなさい…!捕食だけはっ!」 「俺、名前食いたい」 「ひゃっ…ちょ、ちょお待って治!!」 ぺろりと首筋を舐められて背筋がゾクゾクする。 ちょっと待って。 食べるって、そっち? 「いやでも私ら付き合うてへんしっ!ここリビングやしっ!あかんあかん!!」 「付き合うたら食うてええんや?」 「へっ?」 「ほな今からお前俺の彼女な。部屋は侑追い出したらええんやろ」 淡々と話す治の言葉が頭に入ってこん。 ぺろりと舌を出して色っぽく笑う治に顔が一気に熱くなり、抵抗出来んまま膝下と背中に腕入れて持ち上げられてしまった。 「俺、ずーっと名前のこと食ってみたかったし、やっとやわぁ」 それってどういう意味? その質問は噛み付くようなキスに攫われてしまった。 [しおり/もどる] |