呼び鈴のようにかかとを鳴らす




スプーンでカップの中をかき混ぜる。

琥珀色の液体が波打ち、時折カップの外へ飛び出そうと勢いを増した。

カチャカチャとやや耳障りな音が静寂な室内に響く。

そこへため息も溶かした。


「……ブレイク」

「何デスカ、お嬢様」

「!?」


まさか返事がくるとは思わなかった。

突然現れた人物にシャロンは飛び上がった。


「い、いきなり何ですか!」

「なかなか可愛らしい反応でしたネ。さすがお嬢様」

「ブレイク!」


プププとわざとらしく笑う彼に赤い顔で抗議する。

恥ずかしいと思うのは、自分が彼を求めるように名前を呼んだこと。

そして、寂しそうにしている様を見られたこと。


「それで、どうでした?」


平静を装うと、普段通りにカップを運び尋ねる。

指先が震えていることには気づかれただろうか。


「予想通りデスネ。ですが、ただの違法契約者ですヨ?」


ただの、という部分を強調した。

本当に大したことないという意味だろうか。

それとも、危険だからと嘘をつかれたのだろうか。

ブレイクの作られた笑みからは、判断できなかった。

つまり、どちらの意味にも取れる。

カップをソーサーに戻し、シャロンは頷いた。


「少し用意をしてくるので、待っていてください」

「お嬢様がわざわざ行かなくても……」


ブレイクはジャムをたっぷり乗せて、スコーンを頬張った。

ペロリと指をなめる彼にナプキンを差し出す。


「……少し確かめたいことがあるのです」

「確かめたいこと……デスカ」

「ええ。ですから、待っていてくださいね」


釘を刺すように言葉を区切れば、面倒だと言外に言われた。





部屋を出て静かな廊下を歩く。

確かめたいのは、あの事件のことでも、違法契約者のことでもない。

シャロンとブレイクのことだった。

今のシャロンがブレイクにとってどれくらいの位置にいるのか知りたい。

知らなければならない。

遠すぎる距離ならば、少しでも近づけるように努力をしたい。

それは砂糖菓子のような甘い感情からくるものではなかった。

それは多分、もっと現実的なもの。

答えが見つからないから、色々考えすぎて頭が痛い。

シャロンは鏡に映る自分を見つめため息をついた。

成長しない外見。

果たして中身は成長できているのだろうか。

扉を叩く音に顔を向ける。


「お嬢様?」


少し時間をかけすぎたようだ。


「行きましょう、ブレイク」

「ハイ。お供しますヨ」


わざとらしく差し出された手に、シャロンは右手を重ねた。





呼び鈴のようにかかとを鳴らす





(アンケートより)



2010/11/30

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