舐めときゃ治る




かつては貴族が暮らしていたであろう立派な屋敷は、今は廃墟と化している。

それなのに、不自然に手入れされた美しい庭園。

そこに立つのは、ギルバートとアリス。

その景色を前に、ギルバートはため息をついた。


「どうした。そんなにオズと離れるのが寂しいのか?」

「バカなことを言うな」

「だったら、その情けない顔は止めろ。鬱陶しいため息も止めろ。不愉快だ」


ピシリと指を差しながら、言われた。

確かに、そうかもしれない。

先ほどまでの自分を振り返り、反省した。

目を瞑って深呼吸1つ。

目の前の景色を正面から捉える。


「何か感じるか?」

「不味いニオイが2つ……か?」


武器を構える。

不穏な風が二人にまとわりついて、流れていった。


「来るぞ」

「わかっている!!」


一層強い風が吹き、それが治まると二人の前にチェイン――らしきものが、現れた。

ふわふわと頼りない、形らしい形を持っていない。

とりあえず、それをチェインと呼ぶことにした。


「よくわからないが、アレを倒せということか」

「らしいな」


強く拳を握るアリスを横目に武器を構え直す。

そもそも何を目的にここへ送り込まれたのかわからない。

アリスをオズと離し、ギルバートと組ませた理由とは。


「ワカメ、ぼーっとするな!!」

「わかってる」


その直後だった。

ザクッと自分の腕が切れる音がした。

深くない、浅い傷だ。

それなのに、ジクジクと熱と痛みを伴う。

ギルバートは奥歯を噛みしめた。

鬱陶しい痛みだと。

目の前のチェインを睨み、引き金を引く。

幸い怪我をしたのは左腕だったから、問題はない。

その銃弾を待っていたとでも言うように、チェインは煙のように消えた。

もう1体も同じように。


「……ワカメ、大丈夫か?」

「ああ」

「私にできることはないか? これでも応急手当は上手いんだぞ」


自信があると胸を張るアリス。

どう見ても、嘘にしか思えなかった。


「消毒液と包帯だったな。確か」

「……準備がいいな」


まさかこの場で取り出すとは思わなかった。

ポケットに入れていたのだろうが、いつの間に。


「私に任せろ」


ガシッと腕を掴まれた。

その手を払う。


「何をする!」

「それはオレの台詞だ。こんなものは、舐めれば治る。お前の手当など必要ない」

「何だと……! フフン。そういうことか」


うむうむと意味ありげに頷く。

それが終われば、アリスはギルバートの腕に噛みついた。


「痛っ……。何するんだ、バカウサギ!」

「貴様の傷を舐めてやったんだ。ありがたく思え!」

「……」

「その位置だと自分では舐められないだろう」


アリスは鼻を鳴らした。

舐めるというか、噛まれた。


「……ありがとな」


彼女の厚意を無駄にしないように、そう言った。

帰ったら、ちゃんと治療しなければと思いながら。


「よし、もっと舐めてやるぞ!」

「待て!」


飛びついてくるアリスから逃げるため、ギルバートは走り出した。





舐めときゃ治る





title thanks『つぶやくリッタのくちびるを、』



2010/09/17
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