爪先からミュージック




※微捏造?






聖ブリジットデイ。

特別賑やかな街の中を、飲まれないように2人は歩いていた。

何となく間にある見えない距離には気づかないフリをして。


「ねえ、エコちゃん」

「……」


ムッと睨まれ、オズは逃げるように笑った。


「エコちゃん、食べたいものある?」

「エコーは何も食べたくありません」

「せっかくだから、何か一緒に食べようよ」

「……わかりました」

「じゃあ、何にする?」

「ジャン太さんお一人でどうぞ。では」


それは人の流れに逆らわないスムーズな動きだった。

うっかりすれば、確実に彼女を見失っていただろう。


「エコちゃん、待って」

「何ですか」


またムッとした表情。

言葉にもわずかに棘が見える。

そんな彼女の手首を掴んだまま、ニッと笑う。


「……何をそんなに笑う必要があるのですか」

「だって、エコちゃんと一緒だから」

「はい?」

「エコちゃんと一緒だから、自然と笑えるんだよ」

「……愉快な方ですね」


呆れた、とため息をつくエコーの姿に、オズはまた少し頬を緩めた。

きっと彼女に怒られてしまうだろうけれど、あまり表情が変わらないエコーの貴重な姿だと思ったから。


「ジャン太さん、アレが良いです」


妥協策として考えたのだろう。

エコーはよくわからないものを指差した。


「……何、あれ」

「さあ? ですが、未知のものって気になりますよね」


かなりキツイ挑戦状だった。

彼女が本当に食べたいのなら構わない。

だが、明らかにオズを見定めるために選んだもの。

選んだ行動がこの後の二人に影響するのがわかった。


「うーん……。じゃ、エコちゃんと半分こしようか」

「はい?」

「だって、アレ結構大きいし」


オズが言うように、1人分として売っているサイズが軽く2、3人分くらいある。

オズとエコーが半分ずつ食べても充分な量だ。

こんな風に返してくるとは思わなかったのだろう。

エコーは小さな声で唸っている。


「……いらないです」

「そう? ちょっと試したかったんだけどね」

「オズ様は変わった方ですね」

「……」


納得です、と言わんばかりに数回頷いた。

何だか複雑だ。

今日心に生まれる感情は難しいものが多いように感じた。


「ところで、エコちゃん」

「何でしょう」


訂正することも、ムッとすることも諦めたようだ。

いつもの無表情に近いそのカオをオズへ向けた。


「手、貸して」


両手を差し出す。

よく見えるように。


「……手、ですか。どうぞ」


オズと同じようにエコーは手を出した。

彼女の手を握る。

触れられる距離。

今までで一番近い位置。

オズは躍るように歩きだす。


「オズ様!?」

「エコちゃんがいっぱい笑えるように、オレが一緒にいてあげるからね」


『迷惑だ』と形を作りかけた唇が閉じ、錯覚ほど頷いた。





爪先からミュージック





title thanks『つぶやくリッタのくちびるを、』



2010/09/13
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