花の舞う季節




正午を過ぎた噴水広場。

随分暖かくなった空気が心地よくて、セネルはベンチで目を閉じた。

このままだと眠ってしまうなと頭の隅で考えながらも、抗わない。

夢の世界まであと一歩、そんな気持ちよすぎる瞬間に自分を呼ぶ声が聞こえた。


「お兄ちゃん!」


やけに重い瞼を開き、彼女の姿を捉えた。


「シャーリィ、こっちに来てたのか」

「うん」


しばらく水の民の里にいた彼女。

帰ってくると知っていたなら迎えに行ったのに。

口にはせずに心で小さな不満をもらした。

セネルが頼りないからではなく、シャーリィなりに彼を気遣って遠慮したのだろう。

それとも、いきなり現れて驚かせようと思ったのか。

どちらにしても、少々複雑だった。

もしも道中彼女に何かあったら……とそこまで考えると、自分は少し過保護なのかもしれないと気づいた。


「お兄ちゃん?」

「あ、ごめん。元気そうだな」

「もちろん、元気だよ。お兄ちゃんは……眠そうだね」

「……まあ」


彼女に呼ばれる直前に夢の世界へ旅立とうとしていた。

心地よい眠りに誘われつつあったから、さすがに平気な顔はできなかった。

下手な言葉は嘘になりそうだったというのもある。


「今日の予定は?」

「特にないな」

「じゃあ、一緒に来てくれる?」

「何かあるのか?」

「お兄ちゃんに見せたいものがあるの」


ニコリと笑った彼女の笑みを見ていると安心する。

ツラい顔を何度も見た分、やはりシャーリィには笑っていてもらいたい。

それは兄としての感情だけではないだろう。

自身の内に沸き上がる感情をそのままに、セネルはシャーリィと街を出た。

そう遠くない場所へと案内される。

セネルはまだ来たことのない場所だった。

薄桃色の花弁が舞う幻想的な風景。

風は花を奪う乱暴なものではなく、誘うような優しいもの。

心地よい温もりが通り過ぎて行った。

これを消してはならない。

遺跡船には宝物のような風景が数多く存在する。

守りたいのは、それら全部。

そして、


「……お兄ちゃん?」

「寒くないか?」

「平気。ありがとう」


その小さな肩に数多を背負う彼女を支えられるようになりたい。

ならなければならない。

彼女が幸せに生きられる世界をセネルは今何よりも望んでいた。

目の前を舞う花弁に誓う。

彼女を守り続けることを。

そして、共に歩んで行くことを。





花の舞う季節





title thanks『虚言症』



2011/04/15


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -