Rain×Rain




やっぱり、雨の日は少し苦手だ。


窓を叩く雫をぼんやりと見つめ、クロエはそう思った。






Rain×Rain







朝……クロエを目覚めへと誘ったのは、静かに降り続ける雨だった。

起き上がり、窓に近づく。

どんよりとした黒い雲から、白い糸のような雨が降っている。


「雨、か……」


音で分かっていたのに、空気で分かっていたのに、瞳に映った光景にそっと呟いた。

穏やかな雨。

恵みの雨。


「……い」


一定間隔で響く音。


「……さい」


雨音がやけに耳につく。


「うるさいっ!!」


クロエは耳を塞ぎ、座り込んだ。


「……静かに、してくれ」


懇願するように弱々しく呟いた声は、小さな雨音にかき消された。

イヤな記憶を引きずり出す音。

そう簡単に消せはしない。

消させてはくれない。

それだけではないはずなのに、耳障りな雨音は不快感のみを引き出した。


「クロエさんっ」


大きな音をたてて扉が開いた。


「エルザ? 体の方はいいのか?」

「はい、大丈夫です。クロエさんの方が、顔色よくないですけど……」

「私は大丈夫だ」


そう言って、笑ってみせる。


「それより、何かあったんじゃないのか?」

「あっ。そうなんですよ。セネルさんが来ているんです」

「?」


セネルが来たことが何故、そんなに急ぐことになるのだろう。

それとも、何か急用でもあったのだろうか。


「とにかく来てください」


動こうとしないクロエの腕を引っ張る。


「あ、ああ」


クロエの前を歩くエルザが、クスクスと笑っている。


「何か楽しいことでもあったのか?」

「あ、いえ……。雨の日にわざわざ訪ねてきてくださるなんて、さすがクロエさんの王子様だなって」

「な、何を言っている!」

「クロエさん、真っ赤ですよ?」

「私をからかうな」

「はいはい」


手を頬に持っていくと、熱かった。

自分の知らない体温だ。



「あ、クロエ」


ソファに座っていたセネルが立ち上がった。


「では、邪魔者は失礼しますね」

「エルザ!!」

「……?」


二人の様子を不思議そうに見るセネル。


「どうかしたのか?」


二人きりになると、クロエは背を向けてそう尋ねた。


「あ、いや。特別用事があるってワケじゃなくて……。迷惑だったか?」

「そ、そんなことはない」


振り返り、慌てて否定する。

嬉しかったから。


「シャーリィは、放っておいていいのか?」

「あいつ、今忙しいんだよ」

「そうか。ノーマ達は……」

「クロエ」


何とか話を続けようと言葉を紡ぐクロエを止めた。

そして、にっこりと笑う。


「……」


静かな空間。

嫌な沈黙ではない。

だけど、息苦しい。


「俺、そろそろ帰るな」

「え……」

「実は、ウィルの所へ行く用事があったんだ」


玄関先で傘をさそうとしたセネルは、その行為を止めた。

雨が上がっていたから。

うっすらと光がさしている。


「止んだみたいだな」


正面からクロエを見て、そう言った。


「あぁ、本当だな」

「じゃあ、またな」


歩き始めたセネルが立ち止まった。


「?」

「本当は……雨、見てたら……クロエに会いたくなったんだ」

「え……?」

「泣いてなくて良かった」

「ちょっ、それは……」


走り出したセネルの背中は、すぐに見えなくなった。


「ったく、クーリッジは……」


クロエはため息を一つつくと、青空が覗き始めた空を見上げた。






雨の日は苦手だ。



だけど、クーリッジが会いに来てくれるのならば、そう悪くない。






E N D



2005/09/26
移動 2010/12/12



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