サヨナラ乙女




パチリパチリと、目の前の炎が、静かな夜に色を添えた。

星空の下、オレンジ色に染まる顔はどこか遠くを向いたまま。


「チェスター」


不機嫌に名前を呼べば、呼ばれた本人も不機嫌に返す。

そんな所は似なくてもいいのに、なんてアーチェは思った。

思っただけで、それに対して何も言わない。


「おい、名前呼んで無視か」

「んー……? あたし、呼んだっけ?」

「ボケるのは、もう少し先にしろ」

「あはは。だねー……」


乾いた笑い声が、喉に貼りつく。

名前を呼んだのは覚えているし、無視をしているつもりもない。

ただ、よくわからない“何か”が、アーチェに混乱をもたらしていた。


「何か調子狂うな。新手の嫌がらせか?」

「よし! じゃ、そういうことにする」

「じゃ、って何だ。じゃ、って」


嫌がらせだと銘打てば、何故かモヤモヤが落ち着くような気がした。


「でね、チェスター」

「お前、何かおかしいぞ。眠たいなら、寝ろ」

「眠くないよ。目は冴えてるしねー」


確かにアーチェは、眠たくなかった。

自分の様子がおかしい原因と言えば、ただ一つ。

今日の昼間に、ミントの恋愛話に付き合わされたこと。

たったそれだけ。

聞き流せる話だったはずなのに。


「なら、いいけどよ。無理に付き合う必要ないからな」

「あはは。了解〜」


火の番をするチェスターの前に座ったのは、少し前のこと。

何も話さずに、無言でここにいたことをチェスターは不思議に思っただろう。


「あたし、先に寝るね」

「おう、早く寝ろ。寝不足の不細工な顔を見せられたくないからな」

「可愛いあたしだと照れるクセにー」


飛び交う言葉は、いつもと同じ。

やっぱり、この方が好きだと実感した。

ギスギスしてしまうより、遠慮なくぶつかれる相手の方がいい。

そのためなら、目覚め始めた小さな気持ちは、きっと忘れられる。






サヨナラ乙女



E N D



2010/02/08
移動 2010/12/12



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