繋いだ手の暖かさ




薄暗い森の中を二人で歩く。

踏んだ草の匂いが包むようにまとわりつき、枯れ枝がパキポキと静寂を乱した。

魔物との戦闘の際に仲間たちとはぐれてしまった。

周囲を警戒しながら進むクレスの背中をじっと見つめ、武器を握る手に力を込めた。


「ミント、大丈夫かい?」

「え? あ、はい」

「大丈夫?」


クレスは足を止めて振り返る。

ミントの返事が曖昧に濁したように聞こえたのだろう。

数歩分の距離を埋め、クレスは心配そうにミントを見た。

腕や足など怪我をしてしまいそうな部分へ目をやる。

クレスの気遣いは嬉しいが、少し大げさな気もしてミントは止めた。


「どこも怪我なんかしていませんよ。本当に大丈夫です」

「それならいいけど……。無茶はしないでくれ。あと、疲れたらすぐに言うこと」


演技じみた、まるで教師のような言い方。

ミントはくすりと笑い、頷いた。

ただそれだけなのにクレスは表情を和らげ、また歩き始める。

先ほどより一歩近づいて歩く。

そう言えば、最近二人きりで歩く機会などなかった。

こういう状況だから素直に喜べないが、少しだけ嬉しかった。

会話はほとんどなく、仲間たちとの合流が目的。

それでも、嬉しかった。


「ミント」

「あ、はい」

「さっきから何を考えていたんだい?」


歩く速度はそのままで、クレスの瞳は変わらず前を見ていた。

それなのに、心を覗かれたような気がしてドキリとした。


「え、どうしてですか?」

「僕の気のせいかもしれないけど、何だか楽しそうだったから」

「す、すみません!!」


こんな場面で楽しそうにしていた、だなんてどうして外に出してしまったのだろう。

色々言い訳を考えても結局は謝る形になった。


「責めてるわけじゃないんだ。僕も、その……ミントと二人きりで、何ていうか……」


クレスも同じように思っていてくれたこと。

嬉しい気持ちが跳ね上がる。

ミントは小走りで彼の隣へ並ぶ。

そして、その気持ちを言葉に変えた。


「あの、ですね」

「うん」

「クレスさんと一緒に、こうしていられることが嬉しいんです」

「同じなんだ」

「皆さんのことは、もちろん心配です。でも、大丈夫って思えるんです」


その言葉を聞いたクレスは、嫌味なく笑った。

ミントもその笑みが何なのかわかったから、二人は声をそろえた。


「仲間だから」


仲間だから、信じられる。

心配しなくても大丈夫だと。


「あ、あのさ」

「はい」

「手、繋いでもいいかな」

「……はい」


ぎこちなく、まるで初めて触れ合うかのように繋いだ。

同じように手を見つめていたことに気づいた二人は、気まずそうに、幸せそうに笑った。

仲間たちと合流するまで、あと少し。





繋いだ手の暖かさ





title thanks『瞑目』



2010/09/15
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