こんなエンディングは好きですか?




朝の仕事をすべて終わらせたのは、お昼に近い時間だった。

いつものことだから、遅くなったと焦ることはないし、誰かを気にすることもない。

シェリアはこの後の自分の時間をゆっくり楽しむことにした。

宿泊客が談笑しているロビーを抜け、外に出る。

眩しい青空が気持ち良かった。

いつもはお昼まで近くでのんびり過ごすことが多い。

今日は少し遠くへ散歩に行ってみようかと時計と相談した。


「シェリア!」

「……アスベル?」


朝食以降会っていなかったから、誰かと出かけたのだと思っていた。

今ここにくるまでは、一人か複数かはわからないが外にいたのは確かだ。

彼が来た方向を見れば簡単にわかる。


「シェリア」

「何?」


目の前に突き出されたのは、赤い花の束。

20本を越える赤い花と、添えるようにまとめられた白い小さな花。

言葉通り目の前、焦点が合わせにくいほどの距離に出された花束に言葉を失う。

目をぱちくりさせたあとで、それを受け取った。


「どうしたの、これ」

「あー……。散歩中に見つけた花屋で綺麗に咲いてて……。花が完全に咲いてるからって安くしてもらって……。ほら、シェリアが好きそうだし。その……似合うし……」


段々小さくなって、ついには言葉は消えてしまった。


「ありがとう」


甘い香りのする花束。

潰してしまわないように、そっと抱きしめる。


「やっぱり、似合う。シェリアは可愛いから」


先ほどまでオロオロと弱々しくしか話せなかったアスベルが、優しい笑みを浮かべて真っ直ぐに告げた。

ドキッと心臓が喜びと幸せを掛け合わせたような音を立てる。


「……何で睨むんだよ」

「アスベルがズルいからよ。そんな言い方はズルいわ」

「何か気に障ったのか……。ごめん」

「違うの。そうじゃなくて。もう、鈍いんだから!」


意識せずに言われた言葉が、何だか複雑だった。

その言葉に踊らされる自分が恥ずかしい。

自分だけがドキドキするのが悔しい。

今すぐ逃げ出したい。

もらったばかりの花束をぶつけようかとも考えるほど混乱していた。


「もう1ついいか?」

「何が?」

「ちょっと手、借りるな」


ふわりと掴まれた左手。

触れ合う体温にまた体が熱くなった。


「な、何?」


何をされるのかと警戒するシェリアに、アスベルは子どもの頃の笑顔によく似たそれを見せた。

悪戯をする、悪巧みをする、その結果を楽しむ直前のようなカオ。


「ちょっ、ちょっと待って。アスベル!!」


必死に手を引き離そうとするのだが、アスベルは拘束を緩めない。

強すぎるわけではないから、痛くない。

それなのに、離れられなかった。


「アスベ……」

「はい」


今まで掴まれていた左手が自分の元へ帰ってきた。

その薬指には、花束と同じような赤い石がついた指輪。


「……」


ぱちくりと瞬きを繰り返し、ソレとアスベルを見比べる。

彼は先ほどのシェリアと同じように頬を染め、一言。


「シェリアに似合うと思ったんだ」





こんなエンディングは好きですか?





title thanks『虚言症』



2010/09/12
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