わらうあなたがだいきらい




ムスッと膨れたまま、少女は窓を睨んでいた。

窓の外、ではなく窓を。

鋭い視線を受ける窓枠は、困惑しているようにも見える。

実際に困っているのは、ソフィだ。

消しても消しても浮かんでくるのは、アスベルの眩しい笑顔。

それが向けられただけなら、いつもと何の変わりもない。

アスベルがその笑みを向けた相手が、ソフィの知らない女の子だったのだ。

そのコもアスベルと同じように笑っていた。

楽しそうに、二人きりで時と空気を共有しながら、笑っていた。

腹部がムカムカとする。

自分の中で湯が沸騰しているような気がした。


「ソフィ、悪かった!!」


大きな音で扉が開いた。

驚くことなく、ソフィはゆっくり顔を向ける。


「……別に」


思いの外冷たい声が出た。

アスベルはそれを待たせたことへの怒りだと勘違いしたようだった。


「遅くなって、ホントごめん!!」


両手を合わせて、頭を下げる。

けれど、ソフィが欲しいのはそんなモノじゃない。


「アスベル」

「何だ?」


カツカツと音を立て、アスベルの前に立つ。

クエスチョンマークを浮かべる彼の頭へポスンとげんこつを落とした。

痛みを与えるものではない優しい抗議の意味を持つげんこつ。


「……ソフィ?」


背伸びしたまま、ソフィはじっとアスベルの瞳を見つめた。

答えを急かすために、徐々に距離を近づける。


「ソ、ソフィ、どうしたんだ? あ、いや、待たせた俺が悪いんだけど……」

「違う」

「え?」

「待つのは、嫌じゃない。嫌なのは……」


誰かを待つだけの時間は、確かにあまり好きではない。

けれど、それがアスベルを待つ時間だと苦にはならない。

今ソフィの中にある怒りによく似た感情は……。

モヤモヤと渦巻くよくわからない不快感。

初めはアスベルに怒りを向けていた。

それなのに……。


「ソフィ、どうしたんだ!?」


動揺をわかりやすく孕んだ声。

けれど、その声でようやく気づいた。

自分が泣き出しそうな顔をしていることに。

そんな顔を見せてしまうのが恥ずかしくて、ソフィはうつむいた。


「……アスベル」

「何だ?」


この場の打開策を見つけたというように聞こえる。

確かにそうだけれど、そこまで嬉しそうにされるのも複雑だった。


「ギュッて抱きしめて」

「え? あ、ああ、わかった」


慰めるためだけなら、彼はこんな顔をしなかっただろう。

ぎこちなくソフィを抱きしめるアスベルの胸に、軽い頭突きを1つ。


「ソフィ……」

「わたしね、さっきのアスベル、嫌い」

「さっきの俺?」


うーんと唸る声が聞こえる。

ソフィの言葉に当てはまる自分を探しているのだろう。

なかなか次の言葉が出てこない。


「……鈍い」

「え?」


アスベルの腕から抜け出し、ソフィは少し距離を取った。

胸の奥に生まれた感情の名前は、まだ知らない。

けれど、今日わかったことが1つあった。


「あのね、アスベル」





わらうあなたが
だいきらい





title thanks『つぶやくリッタのくちびるを、』



2010/09/11
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