パレードの準備はできているか
あ、ねぇねぇ、弟くん。
あたしの話聞いてくれない?
そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃん。
10分だけ、ね?
いいの!?
ありがと、弟くんっ!!
そういうトコ好きー。
で、話ね。
……何をそんなにへこんでるの?
気のせい?
あのね、あたし、夢を見たの。
ああ、将来の夢じゃなくて、寝てる時に見る夢ね。
わかってるって?
弟くんが出てきたの。
その夢のね、弟くん……ヒューくんがね、すごくカッコ良かったんだよ。
***
「……で?」
「でって何?」
「話はそれで終わりなんですか?」
「うん」
パスカルはバナナジュースを音をたてて飲み干した。
耳障りな音だとヒューバートは眉を顰める。
なくなった容器を名残惜しく手放した。
「あたしの夢に弟くんが出てきたのが初だったんだよね。記念日ってことで、バナナパーティ……」
「しません」
ピシャリと否定すれば、パスカルは口を尖らせて抗議する。
「それくらい、いいじゃん」
「駄目です。貴方は自分の状況をわかっているんですか!?」
頭に響く怒鳴り声。
パスカルは頭を落とし、白い布団の上に乗った自身の両手を見つめた。
魔物の攻撃を受け、赤く染まった彼女を思い出してヒューバートは唇を噛む。
悪夢だと笑い飛ばしたかった現実。
その時の記憶をパスカル自身、あまりよく覚えていない。
強すぎる痛みを感じていたような気もするが、記憶が曖昧で思い出せない。
パスカルが受けた攻撃は出血量も危険だったが、何より体内に入り込んだ毒が厄介だった。
高熱を出して苦しみ、意識のない状態が1週間弱続いた。
その間、ヒューバートは生きた心地がしなかった。
パスカルが目を覚ましたのは、昨日の夜。
大怪我を負ったとは思えないいつもの彼女に、ヒューバートは怒りやら呆れやら混ぜ合わさった感情を抱いたのだった。
「……心配かけて、ごめんね?」
「もう無茶はしないでくださいよ」
「うん」
パスカルは彼のあんなに涙を溜めた瞳を見たのは初めてだった。
「無茶しないから」
「……貴方は自分の体とバナナとどっちが大事なんですか」
呆れたという問いかけにパスカルは一応悩むフリをしてみた。
あんまり演技は得意でないと内心苦笑しながら。
「その選択肢に弟くんも入れていい?」
「は……? え、なっ、何言ってるんですか!!」
「何で怒るの! せっかく弟くんに1票入れようと思ったのに!!」
幼い子どものような、じゃれた口喧嘩が続く。
仲間たちは部屋の外で、静かになるその時を待っていた。
彼女の大好きなバナナパイを用意して。
パレードの準備はできているか
title thanks『カカリア』
2011/06/09