ちっぽけな星が歌う




道端に屈んでいるソフィを見つけたのは偶然だった。

買い物帰りのアスベルに突撃したパスカルが、瓶を何本か割ってしまった。

今にも怒鳴り出しそうなシェリアは、精一杯の笑顔(逆にそれが怖かった)でヒューバートに財布を渡した。

今頃、アスベルとパスカルは彼女の説教を受けているのだろう。

話を戻す。

ヒューバートはソフィを見つけたのだが、彼女は屈むというより蹲っていた。


「ソフィ、どこか具合が悪いんですか?」

「……ヒューバート?」


彼を見上げる瞳は、いつものソフィと少し違う。

だが、病気や怪我の類いではないと直感が告げる。

だから質問を変えた。


「何があったんですか?」

「……何も、ないよ」


視線を逸らしながらのわざとらしい嘘。

わかりやすい嘘は、話の存続を拒絶するもの。

仕方がないとヒューバートはもうひとつの質問を飲み込んだ。


「つい先ほど事件がありましてね」

「……事件?」


コテンと横に倒された頭、ふわりと浮かぶ疑問符に答える。

そして、ヒューバートは今自分が置かれている状況を説明した。

何を話されるのだろうと驚いていたソフィの瞳が、優しく細められる。

少し大人びた笑い方だった。


「大変だね、ヒューバート」

「ええ、まったくです。ソフィ、時間があるのなら付き合ってもらえませんか?」

「……いいよ」


わずかな時を挟んで返ってきた答え。

すっと立ち上がったソフィの足元に見えたもの。

状況が理解できたヒューバートは、自身も気づかないような微かな笑みを浮かべていた。


「ヒューバート、行かないの?」

「そうですね。早く行きましょうか」


ヒューバートの数歩先を歩くソフィの後ろ姿は、やはり普段と違う。

何度か声をかけようとして、それはため息に消えた。



買い物はすぐに終わり、二人は並んで帰り道を歩く。


「ソフィ」

「何?」


ヒューバートが差し出したのは箱。

ペンギンとシロクマのキャラクターが描かれた箱。

ソフィは目を見開いて、箱とヒューバートを見比べた。


「みんなのために買ったお土産を落としてしまったんですよね」

「……」


あの時ソフィの足元にあったのは、崩れて溶けかけたアイスキャンディ。


「どうして、わかったの?」

「ソフィのことなら、何でもわかります」


言ったあとで、わかりやすすぎる嘘だったと思い、少し恥ずかしくなった。


「ヒューバートすごいね。アスベルやシェリアでもわからないことがあるのに」

「あ、いえ……」


ある程度予想していたが、それ以上のリアクション。

キラキラと瞬く星のように煌めく瞳に見つめられると否定もできなかった。


「わたしもヒューバートのことわかるようになりたい。もっと教えて」

「……ええ、まあ……」


曖昧に濁した言葉を気にせずにソフィは蓋を開けた。

箱の中を覗いたソフィの表情が曇る。


「……足りない」

「え? 数は確認しましたよ?」


名前をあげながら、数を数える。


「ヒューバートの分がない」

「甘いものはあまり好きではないので」

「わたしも冷たいのはあんまり好きじゃない。でも、みんなで食べたいの」

「……わかりました」


ソフィが『みんなで食べたい』と言った。

そんな彼女のささやかな願いを、自分に出来る範囲での願いは、叶えたい。


「先に帰ってもらえますか? ぼくは……」

「わたしがヒューバートの分を選ぶね!」


こんなに嬉しそうな顔をされたら困る。

頷くことしかできなかったが、先ほどとは異なるソフィの足取りを見れば、嬉しいと感じている自分に気づかされた。





ちっぽけな星が歌う





title thanks『空想アリア』



2011/02/21


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