空は優しかったかい?




『君に会いたい』とストレートに書いた手紙をソフィに出した。

渡し方はアスベル経由だから、少し意地悪だったかもしれない。

リチャードの立場を考えると、いくら仲間と言えど、女性に軽々しく手紙など送れない。

だから、アスベルを利用したのだった。

言葉は悪いけれど、リチャードもアスベルの相談に乗ったりしているので、お互い様だ。


「リチャード?」


扉の隙間から覗く形で声をかけられる。

10センチほど開いたそこから見えるソフィの姿に、リチャードは肩の力を抜いた。


「どうぞ」


部屋へ招き入れる。

恐る恐ると入ってきた彼女に苦笑を浮かべながら、椅子をすすめた。


「リチャードはズルい」

「突然だね」

「ずっと思ってたけど、今日言うことに決めた」


ぷくっと膨れた可愛らしい頬。

リチャードはついに吹き出した。


「リチャード!」

「ごめんごめん。それで? 僕のどこがズルいのかな?」


ソフィは指を一本立てた。


「そういうところ」


その指を向けられ、リチャードは天井を見つめた。

ソフィのような、純粋の塊のような少女から見れば、確かに「狡い」人間かもしれない。

それはリチャードが彼を取り巻く世界で生き抜くために必要だったから。

けれど、彼女を見ていると思う。

幼い頃から人間の様々な特に嫌な部分を見てきた分、リチャードにはソフィのような穢れを知らない存在が必要なのだと。

真っ白な彼女を守りたい。

真っ白な彼女を汚したい。

心で大きく育ち始めた相反する気持ちを飼い慣らすのはまだ難しいけれど。


「リチャード?」


ズルいという言葉が、彼を怒らせたのだと思ったようだ。

ソフィは不安に揺れる声音でそっと名前を呼ぶ。

怒るはずないのに、じっと見つめてくる瞳から逃げない。


「ソフィ」


リチャードは彼女にかぶさるように抱きしめた。

こんな風に抱きしめると、小さくて儚くて自分の腕で壊してしまいそうになる。

けれど、彼女は強い。

その体が持つ戦闘における強さもそうだが、最近では心の強さも見えるようになった。

頻繁に、ではないが彼女が見せる様々な心の顔は、リチャードの心を安らげるものになっていた。


「リチャード?」


腕の中から声がする。

そっと力を込める。

離したくないと、心が叫んだから。


「リチャード、痛い」

「……あ、ごめん」


離したくなかったが、彼女を傷つけたいわけでもないから、素直に離れる。

離れた途端に腕や胸に伝わっていた彼女の温もりが消えた。

当たり前のことが何故こんなにも苦しいのだろう。


「リチャード、どこか痛いの?」

「いや、大丈夫だ」

「大丈夫な顔、してないよ?」


ソフィはリチャードの前髪を寄せ、その表情から何かを読み取ろうとした。


「リチャード、外へ行こ」

「外?」

「今日はすごく天気がいいから、気持ちいいよ」

「そう、だね」

「青い空を見たら、きっと元気になるよ」


その言葉だけで元気になれる気がした。





空は優しかったかい?





title thanks『たとえば僕が』



2011/02/13


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