埋まらない溝を楽しむ




※捏造






薄暗い室内。

雨宿りにと駆け込んだ山小屋にあった蝋燭に火を灯しただけの部屋。

外は激しく大地を叩きつける雨。


「大丈夫ですか?」


大丈夫だなんて思えないが、気がつけば口から出ていた。


「ええ。あなたは?」

「平気です」


そのまま沈黙へと切り替わる。

雨の音が激しいのだから、会話は成立しない。

それでも、二人の間には確かな静寂が見てとれた。


「ねえ」

「何ですか?」

「何か話を聞かせて」


彼女の言葉に驚いて、顔を見つめた。

儚い笑みを浮かべた彼女は、お願いと視線を動かした。

いきなり何か話をと言われても、簡単に話題は思い浮かばない。

あれはどうだろうかと考えて、つまらないとすぐに却下する。

それなら……と思いつく限りの話題を並べてみても、彼女と会話を楽しめるような内容のものはなかった。


「わたしね」


リアラは膝を抱き寄せ、顔を隠すように埋めた。

声がこもる。


「わたし、英雄を探していたの」


それは何度か聞いた話だった。

彼女が英雄を求める理由はわからない。

ただ一つ言えるのは、リアラは救いを欲しているということ。

彼女自身のためだけでなく、彼女を取り巻く環境にも必要なのだろう。

『英雄』という存在が。


「探している、ではないのですか?」

「……そうね。過去形にするのは早かったわ」


消えそうな笑い声。

自嘲を強く映したソレにヒューバートは眉を顰めた。


「ねえ」

「何ですか」

「何でもない」


リアラは顔を向けない。

けれどそれは、ヒューバートを嫌っているからではなかった。

今にも壊れてしまいそうな屋根を叩いていた雨音が遠退く。

戸を開けると、湿った独特な風が撫でるように入ってきた。


「雨、あがりましたね」

「ええ。綺麗な虹だわ」


二人の前に架かった七色の橋。

虹の麓には宝物が埋まっていると言う。

彼女が求めるものが、その先にあればいいのにと珍しくそんなことを思った。





埋まらない溝を楽しむ





title thanks『空想アリア』



2011/01/11


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