君が好きだと言えたなら




自分のことで、しかもこんな理由で、頭を使うことになるとは思わなかった。

いつの間にか生まれた感情に向き合うことは、照れくさくて難しい。

理屈で考えようとしているからか。

そんな方法を選んでいるところを見ると、まだ随分余裕があるらしい。

上手く相手にできない感情にため息をついた。


「アスベル!」

「ソフィ?」


走ってきたソフィはアスベルの前で止まり、深呼吸をした。

自分を探して走り回っていたのかと思うと、嬉しいような申し訳ないような気持ちになった。


「アスベル、見て!」


嬉しそうに突き出した右手には、様々な色とりどりの花が握られていた。

摘んだままの即席花束。

彼女らしさが詰まっていて、思わず頬を緩めてしまう。


「綺麗だな」

「うん。あのね……」


シェリアに教わってきたのだろう。

花の名前と花言葉を口にする。

ソフィの声で聞く講義は退屈とは程遠く、いつまでも聞いていたくなった。


「……なんだって」


いつまでもと望んだところで、話はすぐに終わりを迎えた。

少し寂しく思いながらも、彼女の説明に笑って頷いた。


「よく覚えたな」

「花が好きだから。それにね、シェリアの教え方がすごく上手なの」

「そっか」


つい手が伸びて彼女の頭を撫でてしまった。

触り心地がよいためか、少し長く。


「アスベル」

「あ、ああ、ごめん」


慌てて手を引けば、ソフィは頭を左右に振った。

嫌ではなかったのだろうが、少し気になったらしい。


「こうしてると落ち着くなって」

「アスベル、ドキドキしてるの?」


彼女の問いかけに心臓が跳ねた。

深い意味などなく、落ち着くの対義語として使ったのだろう。

それがきっかけで『ドキドキ』してきた。

けれど、これはいい機会なのかもしれない。

ギュッと手を握りしめ、決意を形で表した。


「なあ、ソフィ」

「何?」


コトンと頭を倒し、続きを言ってと目が訴える。

一度深呼吸をするが、落ち着かない。

段々と自分自身からすべての感覚が離れていくような、奇妙さを感じた。

それくらい心臓がうるさくて、口が渇いて、手足が震えて……。

異常な緊張感はアスベルを包み込み、離そうとしなかった。


「アスベル、どうしたの?」


純粋無垢な瞳が真っ直ぐにアスベルを見つめる。

言葉が喉に貼り付いて出てこなかった。


「あ……えーっと……」

「ドキドキの次は何か悩んでるの? この花嫌いだった?」

「違う!」


はっきり言葉が飛び出した。

この勢いで伝えればいい。


「俺は」

「うん」

「その……その花、好きだな」

「わたしも好き」


違う!

言いたいのはそんなことじゃない。

と心の中で叫んだ。


「……アスベル?」

「あ、いや、うん。今日の夕飯なんだろうな」

「カニタマがいいな〜」


うっとりとする彼女を見つめ、情けない自分にため息をついた。





君が好きだと言えたなら





title thanks『たとえば僕が』



2010/12/04



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