行き止まりのその先




「もう、しんっじられない! アスベルのバカ! 鈍感! 人でなし!!」


大きな声で叫ばれて、景気のいい音が辺りに響いた。

走り去っていくシェリアの背中を追いかけることができず、アスベルは熱い左頬に手をやった。

彼女が何故あんな風に怒ったのかわからず、だからこそこの痛みに苛立ちが募る。


「何も叩くことないだろ……」


ズキズキと痛むのは、頬か心か。

つきたくもないため息では、モヤモヤとしたものを解消できそうにない。

シェリアが走って行ったほうをもう一度見る。

とっくに見えなくなった後ろ姿。

頬を撫でた手が力なく落ちた。


「……何が悪かったんだ?」


自身の行動を振り返ってみる。

朝はいつも通りだったし……と、1日の行動を順に追った。

ここへ来て彼女の名前を呼んだ時も、いつもと変わらない様子で応えてくれた。

間違いなく、そのあとの会話がシェリアを怒らせた理由だろう。

彼女を好きだという人間がいた。

騎士学校時代の友人で、話をする機会がほしいとアスベルに頼んできたのだ。

話くらいなら、と簡単に引き受けたのが間違いだった。

改めて思い返すと、シェリアの顔がひきつり、体が強張っていた。

その時のアスベルは、そんなことにも気づけていなかった。

まだまだ自分は子どもだと思い知らされる。

幼なじみの、一番身近にいる女の子の、大切な彼女のことを何も思いやれないなんて。


「はぁ〜……」


思いきりため息を吐き出す。

そして、深呼吸。

新しい空気が自分の中に入ってくると、身が引き締まる思いがした。

何となく重い足を動かし、シェリアを追いかけることにした。





* * *



「……どうしよう」


胸を蠢く後悔に、シェリアは迷子のように泣き出してしまいそうだった。

右手がジンジンと痛む。

アスベルの行動と言葉に苛立ち、手を出してしまった。

アスベルは何も悪くないのに。

自分の幼い心がいけなかっただけなのに。

思いきり肩を落としたが、自分がどうすべきかとっくに気づいていた。

ただ、少しだけ勇気が足りない。


「シェリア」


背後から聞こえた声に体が凍りつく。

振り向けない。

声が出ない。


「……ごめん」


怒鳴られるかと思った。

問い詰められるかと思った。

色々なイメージが頭の中を暴れるように動き回っていた。

想像と違いすぎた言葉に、沸騰寸前の頭が急速冷凍した気がした。


「俺が悪かった。シェリアの気持ちを考えずに無神経なことを言って、本当にすまない」

「ち、違うの!」

「え?」

「アスベルは悪くないわ。私が、私が……ごめんなさい」


気まずい沈黙が流れる。

空気に耐えきれず、思わず視線を逸らしてしまった。


「なあ、シェリア」

「な、何?」

「焼き鳥丼、食べに行くか」

「……カレーでもいいわよ」


シェリアが大好きなアスベルが、そこにいた。





行き止まりのその先






(アンケートより)



2010/11/04
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