ケーキよりも甘い夢




もうすぐケーキが焼けるから、アスベルを呼んできて。

シェリアにそう頼まれたソフィが彼の部屋を訪ねると、眠っていた。

行儀よく椅子に座り、机と顔の間に自分の腕を挟んですやすやと。


「アスベル」


背中を撫でるように、体を揺する。

しかし、反応はなかった。


「アスベルってば」


少し力を強くした。

それでも、反応はない。

うたた寝ではなく、熟睡。

これ以上力を強くすれば、確実に殴ってしまう。

ソフィは己の拳を見つめたあとで、そっと下ろした。


「ねえ、アスベル。シェリアが呼んでるよ」


返事はない。


「美味しいケーキでお茶しようって」


反応はない。


「アスベルの分、なくなっちゃうよ?」


目を覚ます気配がない。

ぷにぷにと頬をつついてみた。

眉間にシワを寄せたが、まだ夢の中にいるようだ。

そこまで心地のよいものなのかとソフィは少しムッとした。

こんなにもソフィはアスベルの名前を呼んでいるのに。

どんな夢を見ているのだろう。

戦っている時の凛々しい顔は姿を隠し、随分幼い寝顔をさらけ出していた。

それは本当に幸せそうな寝顔。

その夢の中に、自分は出ているのだろうかとソフィは気になった。

アスベルの『幸せ』に入り込んでも怒られないだろうか。

いくつもの疑問は、シャボン玉のように膨らみ、すぐに消えた。

今はこんなことを考えている場合じゃない。

早く起こさないと、美味しいオヤツの時間が短くなる。

それは嫌だ。

ぷーっと見せつけるように頬を膨らませてみた。

そんなことをしたところでアスベルに届くはずがない。

彼を確実に起こす方法を考えることにした。

できれば、あまり暴力的ではない方法で。

すやすやと眠るアスベルの隣で、ソフィは唸る。


「そう言えば……」


ふと思い出した。

眠っている人間を起こす方法を。

実際にそれをしている人を見たことはない。

物語の世界で出会った方法。

読んだ本の世界で見た方法。

ソフィはそれを試してみることにした。

このままのアスベルには無理なので、少し乱暴に彼を押した。

力の入っていないアスベルはわりと軽く動く。



――ガコンッ。



ゴロンと体を動かせば、そんな痛々しい音がした。

後頭部をぶつけたアスベルは、強制的に起こされる。


「った、何だ……」


軽く涙目で目を覚ますと、そこにはソフィ。

かなり至近距離だと、まだ寝ぼけた頭でアスベルはぼんやり思った。

覚醒しない頭のままで、彼女の名前を呼ぼうとする。


「ソ――……」


それは、眠り姫を目覚めさせる特別な魔法。





ケーキよりも甘い夢





(アンケートより)



2010/10/05
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