歌うようにその名を呼べたなら




だらだらと時間の無駄遣いを絵に描いたような光景が、ヒューバートの前に広がっている。

年上の、年頃の女性の姿ではない。

呆れすぎて、ため息の1つも出なかった。


「パスカルさん」

「ほえ?」


ベッドに寝転がっているパスカルが、体を反らしてヒューバートを見る。

足元に枕。

ゴロゴロしていたせいで、髪はボサボサだ。


「なーにー?」

「言わなければわかりませんか?」


コロンと反転して、パスカルは起き上がった。

服にも余計なシワができている。


「うん。教えて」

「……では、はっきり言います。みっともないのでやめてください」

「何を?」


わかっていて言ったのか、本当にわからないのか。

パスカルは頭をコテンと横に倒した。


「昼間からベッドの上でゴロゴロしないでください。しかも、そんな格好で」

「別に普通だよ〜?」


キャミソールと短パン。

随分楽な格好をしているのは、1時間前にシェリアががんばったから。

部屋に漂う石鹸の香りは、久しぶりにお風呂に入ったパスカルのものだ。


「くつろぐのなら、ご自分の部屋でどうぞ」

「一人は退屈なんだよ〜? 弟くんに構ってもらおうと思っただけなのに〜」


わざとらしい演技を見せられた。

多分、風呂場から遠い部屋に戻るより、近くでゴロゴロしたかっただけだ。

大勢の人間の目につく場所でなかっただけ……。

そこまで考えてヒューバートは頭を振った。


「あのですね、パスカルさん」

「ねー、何であたしは“さん”づけなの?」

「はい? ああ、ぼくより年上ですから、当然じゃないですか」


一瞬何を言われたのだろうかと考えてしまった。

彼女の呼び方のことを指していると気づき、当たり前のようにそう返す。

パスカルはぷいっと幼子のように拗ねた。


「でもさ、シェリアは呼び捨てだよね」

「幼なじみだからですよ」


パスカルは納得いかないと難しい顔をする。

そんな彼女にヒューバートは反撃することにした。


「パスカルさんだって、ぼくのことを名前で呼んでくれないじゃないですか」

「呼んだことあるよ? 3回くらい」

「……」

「そんな顔しないでよ。弟くんは弟くんだもん」


何だか不公平だとヒューバートは思った。

さすがに呼び捨ては無理だが、ヒューバートはパスカルの名前を呼んでいる。

それなのに、パスカルは名前の欠片すら呼んでくれない。


「拗ねないでよ。アスベルの弟を卒業したら、名前で呼んであげるから」

「そうきますか」

「なかなかだったでしょ」


パスカルはブイサインを作った。

何に対する勝利宣言なのだろう。


「とりあえず、上着を羽織ってください。風邪ひきますよ」

「部屋まで戻るのめんどい」

「……パスカルさん」

「じゃさ、ヒューバートの上着貸して」


ニコリと笑う彼女に、敗北宣言をするしかなかった。





歌うように
その名を呼べたなら





(アンケートより)



2010/09/28
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