今宵お伽話をお聞かせしよう



静かすぎる廊下を歩く。

見回りの騎士が通り過ぎることはあるが、人の声が聞こえない静かな廊下。

奇妙な緊張感に急かされる。

ゆっくりとした歩幅はやがて、大きく開く。

走っていると自覚したのは、目的地に到着する直前だった。

扉の前で呼吸を整える。

最後に1つ深呼吸をして、その部屋へ足を踏み入れた。


「ユーリ!」

「エステル」


飛び込んだエステルをしっかり受け止め、ユーリは優しく包み込んだ。


「毎回危ないって言ってるだろ」

「ユーリがいると、つい……」


埋めたい距離がたくさんあった。

時間も距離も想いも、全部全部。


「ユーリ、今日はいつもより長く一緒にいられるんですよね?」

「まあ……多分、な」

「多分なんです?」

「エステルが望むなら、朝まで付き合ってやるぞ?」

「それは遠慮します」


きっぱりはっきりそう言えば、ユーリは苦笑した。


「誘いに乗ってくれないか」

「誘い、なんです?」

「わからないならいい」


エステルは首を傾げた。

わからないから教えてほしいのに、ユーリは何も答えなかった。


「んじゃ、オレからエステルに1コ話を聞かせてやるよ」

「話、です?」


ユーリの口からそんな単語を聞くとは思わなかった。

何やら嫌な予感がする。

好ましくない話かもしれないと思うと、聞きたくない。

耳を塞いで拒絶しようかと思った。

そんなエステルの心を見透かしたようにユーリは笑う。

いつもの笑みだから、彼の心意を読み取ることは叶わない。

気持ちを落ち着かせるため、胸に手を置きゆっくり呼吸を繰り返した。


「ほら」


ユーリは自分の隣を叩いて、エステルに座るよう促した。

三人は座れる長椅子。

わずかな距離を挟んだのは、今の心情からか。

その距離を見て、ユーリはまた苦笑する。


「エステル、もっとこっちへ来いよ」


肩を抱かれ、体をくっつけるように寄せられた。

近い、近すぎる距離。

心臓が跳ねる。


「ユ、ユユ、ユーリ!?」

「おっ、どうした?」

「どうした、じゃありません! いきなり何するんですか!!」

「……そうか。エステルはオレに触られるのがそんなに嫌なんだな」

「違います、全然違います! そんなことないですからね! わたしは……」


声を抑えて笑っているユーリの姿を見ると、はめられたことに気づかされる。


「ユーリ」

「可愛すぎるエステルが悪い」

「酷いです」


膨れて見せれば、ユーリは声に出して笑った。

可愛い可愛いと繰り返しながら。


「笑っていないで早く話を聞かせてください」

「はいはい、お姫様」





今宵お伽話をお聞かせしよう





title thanks『啼けない小鳥のアリエッタ』



2011/09/28


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