呆れるほどのキスで起こして




誰かの泣き声が聞こえた。

押し殺された微かな泣き声。

胸を締め付けるような声に、辺りを見回して声の主を探した。

酷く重い暗闇が広がっていて、声の主どころか自分すらも見失ってしまう。

声をかけようとしても、喉がしめつけられて、音にすらならない。

不意に現れた温もり。

優しい光。

体の自由を奪っていた何かは溶かされるように消えた。





「……パティ」

「ようやく起きたか。お寝坊さんじゃの」


ベッドの端に正座して、フレンの顔を見下ろしている。

その顔は外見に沿った愛らしい表情。

けれど、瞳だけは少女とは程遠い色を映していた。


「何をしていたんだい?」


確信を持って、フレンはパティに尋ねた。

照れる様など見せず、誇らしげに胸を張って答える。


「おはようのちゅー、なのじゃ」

「……ありがとう」


朝から妙な疲労感に襲われる。

決して彼女のこういうところが嫌いなわけではない。

可愛らしくて、好きだとはっきり言える。

けれど、話はそれだけではないのだ。


「まだ起きられないようなら、もう一度……」

「大丈夫。起きてるから」

「何じゃ。つまらんのう」


本当につまらなさそうにそう言い、パティはベッドから降りた。

わずかに跳ねたベッドから起き上がる。

時間を確認すれば、まだ早い時間だった。


「どうしたの?」


時計からパティへ目を移せば、彼女は気まずそうに顔を逸らす。

何かしたのだろうかと不安になるが、パティが顔を背けた理由は別にあった。


「フレンにお願いしたいことがあるのじゃ」

「僕に? 何だい?」


ベッドの縁に腰をかけ、彼女と真っ直ぐ視線を交えた。

言いにくそうにしていたパティは、嬉しそうに笑った。


「明日はフレンに起こされたいのじゃ」

「それくらい構わないよ」

「おはようのちゅーで起こしてくれるかの?」

「……」

「何故黙るのじゃ!!」


不満を表すようにジタバタと手足を動かす。

暴れていたのはわずかな時間で、すぐに静かになった。


「フレンなら……」

「ん?」

「何でもない、のじゃ」

「何でもないことないだろ?」


フレンはパティの頭に手を置く。

わかりやすく拗ねた彼女をあやすように撫でる。


「おはよう」


フレンは頬にそっと唇を寄せた。





呆れるほどのキスで起こして





title thanks『たとえば僕が』



2011/06/02


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -