寂しがり



頭の中を整理しようと文章を書き散らすリタの前で、何やらレイヴンは笑っていた。

いつものリタなら、蹴りや術の一発食らわせるのだが、何かとめんどくさいので、無視している。


「……いい加減、どこかに行きなさいよ」


どれくらい時間が経ったか分からないが、かなり長い時間そこにいるレイヴンに、つい構ってしまった。

構う……とは少し違うが。


「やっと、こっち向いてくれた。おっさん、寂しくて死にそうだったわよ」

「あ、そう」


うっかり話しかけた自分がバカだったと、手元へ視線を落とす。

乱れた自分の文字が飛び込んできて、何だか癪に触った。


「ねぇ。リタっち」

「……何よ」

「頭使うと、甘い物食べたくならない?」

「ならない」


語尾に被せるくらい素早い否定。

レイヴンはわざとらしく頬を膨らませ、子どもっぽい表情を作った。

バカらしくて、何かをする気力すらない。

何故こんなことに――レイヴンと二人で過ごすことになったのか。

少し前の記憶を辿った。

ユーリ達『凛々の明星』が突然現れて、レイヴンを押し付けて行ったのだ。

どうせなら、もっと暇な人に押し付ければいいのに、と思う。

「リタが最適だ」と言った時のユーリの笑みが気になる。

何を企んでいるのやら。


「リタっち。おっさん、寂しいのよ。ちょこっと、構ってくれない?」


やるべきことは済んだし、気分転換も悪くない。

相手がレイヴンであることに少々不満を抱きながら、付き合うことにした。


「しょうがないわね。感謝しなさいよ」

「ありがとう、リタっち〜。愛してるぜ」


大げさにそう言うものだから、照れ隠しに一発殴っておいた。

そして、先に歩き出す。


「ちょっと、リタっち。酷くない?」

「冗談や嘘ばっかり言う大人は、信用出来ないの」

「なるほどねぇ。一応、気をつけるわ」


その無駄な余裕が憎たらしくて……と考えて悩む。

「何故?」と。


「リタっち、どしたのー?」

「別に」


今日はやけに名前を呼ばれる。

それも、「何故?」。


「……ねえ」

「何ー?」


リタは開いた距離を一気に埋めて、レイヴンの手を握った。

脈を測るように。


「あの?」

「あんたがあんまりおかしいから、調子悪いんじゃないかと思っただけ!!」


他意はないと強調するように、早口で。


「ありがとう」


何を素直に微笑んでいるのか。

その優しい眼差しは苦手だ。

リタはクルリと回り、足早に歩き出した。

歩くというより、走るに近い。


「ちょっと、おっさんを放っておかないでってば!」


背後から追いかけてくる声は、心を乱す。

乱す割に、ほんのり温もりを残して行く。

よく分からなくて、乱暴に頭をかいた。


「どうしたのよ」

「とりあえず、何かすっきりする物を奢ってよね! その後で、じっくり話し合いを、ね」

「何その、術を二、三発ぶっ飛ばしそうな空気は」


意外と心地よい空気は、リタの足を軽くする。

何やらうるさいレイヴンと共に、足を速めた。





寂しがりは、どっち?





E N D



2009/09/04
移動 2010/12/14



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