僕らのキッチン事情
綺麗なキッチンに立つのは、騎士と魔導士。
一般人が見れば、何ということもない光景。
だが、この二人を知る者からすれば、果てしなく危険な組み合わせ。
キッチンに立つ、つまり料理をする。
ここに彼の親友がいれば、全力で止めていたかもしれない。
「で、レシピは?」
「僕の頭の中」
「それって、かなりの不安材料じゃない?」
「そうかな」
記憶力はいい方だよ、とフレンは笑う。
そういう意味ではないリタは、普段の表情をわずかにひきつらせた。
「じゃあ、始めようか」
料理があまり得意でないリタが、何故味覚が常人を超えるフレンと一緒にいるのか。
当然、料理をするつもりだ。
ユーリにからかわれ、思わずノってしまった。
今なら、安い挑発だったと分かる。
食材と器具を眺めながら、リタはため息をついた。
「ほら、始めるよ」
「ヨロシクオネガイシマス」
片言で言うリタに、フレンは優しい笑みを向けた。
* * *
「あんたって、ある意味天才よね」
「?」
「あたし、あんまり料理得意じゃないから、よくわからないけど。……普通の手順で、最強の料理を作るんだから」
「普通の出来だと思うけど……」
出来たばかりの料理へと視線を落とした。
見た目は完璧だ。
香りもそう悪くない。
味見はフレン自身がしていたのだが、それは安心とは程遠い行為。
彼の舌は何より頼りにならない。
「ま、いいわ」
「リタ、食べてみて」
「……」
「何で顔を逸らすのかな?」
フレンの笑みが痛い。
リタは渇いた笑い一つフレンに向けた。
「はい。口開けて」
「……」
「リタ」
悪意がないから、断りにくい。
善意ほど扱いにくいものはない。
料理に付き合わせたわけだから、余計に行動は制限される。
どうにでもなれ、とリタは口を開いた。
「……っ!」
予想通りの結末だと、リタは失う意識の中で考えた。
何故か倒れてしまったリタを咄嗟に支える。
「何か、間違えたかな……?」
見た目より軽いリタを抱き、客室へ向かった。
その後、キッチンに立つ難しい顔をしている彼に、事情を問いただす仲間の姿が見られたとか。
僕らのキッチン事情
E N D
2009/11/13