その横顔に優しいキス



「……ジュディ」

「何かしら」


いつものように、色々と含んだ声。

負けたくないのだが、勝てる自信はない。


「それ、何だ?」


先ほどから自分の隣で本を読んでいる彼女。

それが気になり、尋ねてみた。

ジュディスは栞を挟んで本を閉じる。

そして、表紙を見せた。


「……恋愛小説?」


珍しい物を見たと、わずかに声に変化を出してしまった。


「あら。私だって、こんな本を読むわよ?」

「あぁ、そうだよな。……で、面白いのか?」

「そうね……」


ジュディスは少し顔を上げて考える。

感想をまとめている、という顔には見えない。


「暇潰しには、面白いわ」

「……そうか」

「貴方も読んでみる? 貸してあげるわ」

「冗談だろ?」

「あら。冗談じゃないわよ」


自分が女性の好む恋愛小説を読んでいる姿を想像すれば、果てしない頭痛に襲われた。

迂闊に想像などするものではない。

深いため息一つ、頭を振って映像を消した。


「どうしたの?」


本を読むのはやめたようで、頬杖をつき熱い視線を向けられる。

本はいいのかと尋ねれば、貴方と話をする方が楽しいものと返された。

ジュディスらしい。


「どうもしてないぜ?」

「そうかしら」

「ああ」

「なら、いいわ」


ジュディスはコーヒーカップを優雅に持ち、一口だけ飲んだ。

フッと柔らかな笑みを浮かべ、ユーリを挑戦的に見上げる。


「ジュディ、そんな顔しないでくれ」

「どんな顔かしら」

「まったく……」


楽しそうに笑って。

どうして、彼女には勝てないのだろう。

本気で勝とうとしていない時点で、負けているようなものだ。

彼女がぐっと距離を縮めてきた。

何だと問う前に、確認する前に。


「……ジュディ」

「何かしら」


今は離れてしまった彼女。

頬に触れた優しい温もりにため息をついた。


「もっと、嬉しそうな顔をしたらどうなの?」

「そうだな」

「もしかして、嫌だったのかしら」

「まさか」


どこか拗ねたように見える彼女に、苦笑を浮かべる。

ご機嫌をとるように、



その横顔に優しいキス





E N D



2009/11/01
移動 2010/12/13



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -