傷痕を殺せ



「ちょっと無茶したんじゃねぇか?」


ジュディスの右腕を裂いた赤を見ながら、ユーリは彼女へと問いかける。


「そんなつもりはなかったのだけど……。こんなモノ作っちゃったのだから、そうかもしれないわ」


いつもの調子でいつものように。

まるで、他人事。

見ている方は痛くてたまらないのに。


「ジュディ」


傷の手当てをしながら、何度も名前を呼ぶ。

それは、自分を安心させるためだったのかもしれない。


「どうしたの、ユーリ。いつもの貴方らしくないわ」

「かもな」


己の手が震えているような気もする。

まったく何に怯えているのだか、自分を嘲笑い、ゆっくり呼吸を繰り返した。

包帯の上から傷痕へ口づけ。

ささやかな、おまじない。

彼女の肌に痕が残らないようにと。


「ありがとう」

「……いや。一応女なんだから、あんまり無茶すんなよ」

「そうね……。無茶しそうになったら、ユーリが止めて。私、自覚ないみたいだから」

「だな」


いつものように微笑むジュディス。

そのいつもが、今日だけは何故か怖かった。


「ユーリ、どうしたの?」

「さあ? オレもよくわかんねぇわ」

「……そんなに心配?」

「ジュディのことは信じてると思うんだけどな」


ジュディスはユーリの手を取り、優しく包み込んだ。

温かい彼女の手。


「ほら、平気でしょ」

「……だな」

「まだ心配なの?」

「……」


何故バレたのだろう。

と、わずかでも顔に出せば、鋭い彼女に気づかれるのは当然だ。


「大丈夫よ。私、まだ頑張りたい理由があるから」

「頑張りたい理由?」

「ええ。いつか、貴方と並べたら教えてあげるわ」


ジュディスが何で並びたいのかわからなかったが、今は何も聞かずに頷いた。

いつの間にか、溢れ出しそうな不安が消えていたから。


「ジュディ」

「何かしら」

「ありがとな」

「おかしいわ。お礼を言うのは、私の方よ。ありがとう、ユーリ」





傷痕を殺せ





E N D



2009/11/01
移動 2010/12/13



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