姫君の祈りを優しく殺す



窓の外を眺めるエステリーゼの横顔は、憂いを秘めていてとても美しかった。

寂しげな瞳を完全に癒すことは出来ない。

彼女は、次期皇帝候補の一人なのだから。

彼女の望みを叶えることは出来ない。

自分の身分では、とても。


「フレン」

「はい」

「また、話を聞かせてくれませんか?」

「はい。分かりました」


新しい紅茶をカップに注ぎ、笑顔で応える。

それをエステリーゼに渡し、フレンは一定の距離を保ち、話し始めた。

彼女を楽しませられるような話をもうあまり持っていなかったのだが。






「……ということがあったのです」

「すごい方ですね、フレンのお友達って」

「すごい……というべきなのかは、わかりませんが」


瞳を輝かせ、フレンからすれば退屈すぎる世間話を聞くエステリーゼ。

狭すぎる彼女の世界だからこそ、新鮮に感じることが出来たのだろう。

本の世界だけを知る彼女だから、か。

寝る前の絵本をねだる子どものようなエステリーゼ。

「今の話で最後です」と、柔らかくこの時間の終了を告げた。

つまらなさそうに視線を落とした彼女に、わずかな罪悪感が生まれた。

仕方ないのだと自分に言い聞かせる。


「では、私はこれで失礼します」


手を胸に、深く頭を下げる。

退室しようとしたその時。


「フレン」

「何でしょう?」


エステリーゼはクルリと回った。

ふわりとドレスが舞い、彼女にしては少し意地悪な表情を浮かべる。

何を言うのだろうかと、期待と不安が混じる心で聞く準備をする。


「わたし、もっと外の世界を見てみたいです」


少しでも見られるようにと、エステリーゼは窓際で背伸びをした。

それに対するフレンの言葉は、いつもと同じ。


「その時が来たなら、私もお供させてください」

「約束ですよ?」


振り返り小指を差し出す彼女に、フレンは笑顔を返すことしかできなかった。





姫君の祈りを優しく殺す

彼女の願いは叶えられない。
『誰か』彼女を拐ってくれと、不謹慎なことを考えた。






E N D



2009/09/08
移動 2010/12/13



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