スキナトコロ




たとえば、『彼のどこが好きなのか』と問われたら、わたしは答えに悩むと思います。






「あの、エステルさん」

「何でしょう」

「そんなに見つめられると、照れるんですけど」

「なら、思いっ切り照れて下さい」

「……」


先ほどからユーリの前に座り、エステルは尋問するような強い瞳を見せていた。

と言っても、言葉は一切口にしていない。

ただ、何かを得ようとその瞳で、ユーリを見つめていた。

暫くは様子を見ていたのだが、さすがに気になる。

けれど、エステルはその理由を教えてくれそうにない。

ユーリはため息をついた。


「エステル、楽しいか?」

「さあ。どうでしょう?」

「なら、ちょっと」

「ダメです」

「……困ったな」

「そうです?」


じっとしているのは、苦手だ。

『落ち着きがない』と言う親友の声が脳内に響いた。


「ユーリ、退屈そうですね」

「お陰さまで」

「え? わたしのせいです?」


エステルは少し考えて、何か閃いたようだ。

にこりと笑った。


「一緒に出かけましょう。ね?」


右腕をぐっと両手で掴まれる。

優しい力で引っ張られ、ユーリは立ち上がった。


「出かけるって……」

「散歩です」

「散歩ねぇ」






相変わらずの視線を向けてくるエステルの隣を歩く。

そんな風にじっと見ていると、人にぶつかったりしそうなものだが、エステルは人も段差も上手く避けた。

ユーリばかりを見ているようで、周囲にも注意を払っているようだ。

ユーリ自身は、彼女が怪我をしたりしないように、いつも以上に気を張っていたりする。


「ユーリ、何を考えているんです? 表情がカタイですよ?」

「エステルのことをちょっとな」

「わたしのこと!?」


彼女らしい反応だ。

予想を裏切らないエステルに、わずかに生まれた悪戯心。


「エステルがあんまりにも可愛いから、その辺の野郎共が放っておかないだろうな。ってな」

「なな何言ってるんですか!!」


顔を赤く染めて、怒る彼女。

可愛いだの綺麗だのと言われ慣れているだろうに。


「冗談だよ」

「……」

「可愛いって思ったのは、ホント」

「もうユーリの言うことなんて、信じません」


プイッと顔を背ける仕草も予想通り。

拗ねるなと、彼女の髪に触れることで伝える。


「わたしの髪が」

「ん?」


ユーリの方を向いたエステル。

気にせず、彼女の髪をすく。


「わたしの髪がユーリくらい長くなったら、言いますね」

「……何を?」

「秘密です」


どこか嬉しそうに笑う彼女。

エステルが何を言いたいのか、ふと浮かんだ言葉は自惚れだろうか……。






外の世界を見せてくれた彼が好き。


料理を教えてくれた彼が好き。


自分で決断することの難しさ、そしてその重さを教えてくれた彼が好き。


間違いを叱ってくれる彼が好き。


わたしを見つけてくれた彼が好き。


行き先を照らしてくれる彼が好き。


笑ってくれる彼が好き。


たまに意地悪な彼が好き。


その手の優しさが好き。


たくさんの好きが詰まっているユーリが、好きなんです。





スキナトコロ

たくさんありすぎて、話す時間が足りません。





E N D



2009/09/09
移動 2010/12/13



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