乙女は孤高の天使に倣う




バウルが運ぶフィエルティア号の中。

いつもよりゆっくり進む船の中。

室内でぐったりしているリタは、吐き出したくなるダルさに舌打ちをした。

自身の体調異常に気づいたのは、昨日の朝。

大丈夫だろうと気遣わなかった。

その結果がこれだ。

世界がぐるぐると回っている。


「大丈夫か?」


覗き込んでくるユーリの姿に、答える気力がない。

大丈夫なら、こんなところで寝ていたりしない。

文句を言う代わりに睨んだ。


「……悪かった。水、欲しくないか?」

「い、らな、い」

「水分とったほうがいいぞ」


力なく頭を左右に振った。

遠慮とか、些細な抵抗とかではなく、本当にいらなかった。

今何かを胃に入れることはできなかった。

多分、吐き出してしまうだろうから。


「リタ」

「……に?」


額に触れるユーリの手。

ひんやりとしていて心地よい。

そのまま目を閉じる。


「熱いな」

「……そ、う?」


確かに、脳内が沸騰しているような気もする。

いつもは働きたがる頭も完全な休養を欲しがっているし。

それに……。

頼りなく伸びたリタの手が、弱々しくユーリの腕を掴む。


「どうした?」

「……ちょっと、一緒に、いたくなった、だけ」


頭が上手く働かないせいか、いつもは可愛くないことが飛び出す口が素直だ。

リタ自身はそのことに気づいておらず、ユーリは一人目を丸くした。

いつもの自分を、誰かの目を、わずか先の未来を、何もかもを意識する余裕がない。

ただ、心の求めるままに、唇を動かす。


「……のね、結構、好き、なのよ……」

「え?」


瞳を閉じたまま、うわごとのように言葉を並べる。

リタの中に生まれた言葉は、きちんと届いているだろうか。

届かなくてもいいのだが、こんな時でもなければ絶対言えない。

夢現の中で、ぽつりぽつり。

一人でいる方が楽で、一人でいることに慣れていて、世界丸ごと拒絶していた時期があった。

自分には誰も必要ないと思い込んでいた。

一度触れた温もりから逃れられなくなるなど、想像できただろうか。

リタは熱い息を吐き出した。


「おやすみ、リタ」

「……うん」


ゆっくり眠りに落ちていくリタの頭を撫でる。

目が覚めた時には怒鳴られるかもしれないが、強く握られたその手。

彼女に頼られたことを嬉しく思い、そのままユーリもリタの側でうたた寝することにした。


「おやすみ。ゆっくり眠れよ」


眠ってしまったリタに一言声をかけて。





乙女は孤高の天使に倣う





(アンケートより)



2010/10/19
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -