君が作った優しい世界




姿が見えなくなったエステルを探し、ユーリはウロウロしていた。

彼女がいそうな場所に心当たりはある。

けれど、直ぐに向かうのは何となく悔しい。

いつも最初に見つけるのはユーリの方で、たまにはエステルの方から見つけてもらいたい。

まだまだ自分の中に残る子どもっぽい感情に、嘆息した。


「ま、いいか」


足を目的地に向ける。

予想通りハルルの木の下に彼女はいた。


「エステル、何してんだ?」

「ユユ、ユーリ!?」

「何だよ」


慌てて胸に抱いたのは、白い紙。

誰かに手紙でも書いていたのだろうか。

エステルの視線を独り占めし、その後も奪うであろうそれが憎い。

ただの紙切れにさえ嫉妬してしまう自分に、ため息をついた。

余裕なさすぎる心がカッコ悪いし、情けない。


「……手紙か?」

「違います」

「じゃあ、何?」


赤い顔のまま、唇を尖らせる。

言いたくない、ということだろう。


「見せてくれよ」

「まだ未完成なんです」

「じゃあ、完成したら見せてくれるんだな」

「うぅ……」


しばらく迷ったエステルは、観念してそれを出した。

ユーリが自分から言い出したことだが、他人宛ての文章を読んでもいいものか。

受け取ることを躊躇したものの、せっかくエステルが見せてくれるのだ。

この好機を逃したくない。

両手で顔を覆ってしまったエステルの前で、彼女の文字に目を通す。


『大好きなものをたくさん並べたら――……』


「……エステル?」


少なくとも、誰か宛ての手紙ではなかった。

数行読んで、尋ねるように彼女の名前を呼んだ。


「笑わないでくださいね?」

「何を笑えって言うんだ? これ、エステルが書いた物語だろ?」


彼女の返事を聞く前に、続きを読む。

一人の少年が幼馴染みの少女と一番の宝物を探しに行く物語だった。

旅の途中で仲間も増え、一人だと逃げ出してしまいそうな恐怖に立ち向かうところまで書かれている。

本を読むのはあまり得意ではないが、スラスラと読めた。


「……下手だって思ったんじゃないです?」

「オレが文章の良し悪しを判断できると思うか?」

「つまり、下手でもわからないと」

「あのな。オレはエステルが書いた話だから……」


一度言葉を切る。


「エステルが書いた話だから、最後まで読みたいと思う。読みたいって思えるのは、文章の上手い下手じゃないだろ?」


ユーリはエステルに彼女の物語を返す。

受け取ったそれを大事そうに抱いた。


「で、結末は考えてるのか?」

「はい。もちろん、ハッピーエンドです」


嬉しそうに笑う彼女を見ていると、きっとこの物語が生きる世界は幸せなものなのだと思えた。





君が作った優しい世界





(アンケートより)



2010/10/19
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