kiss me




そろそろ寝ようかと皆が動き始めた頃だった。

今までどこかに行っていたジュディスがユーリに近づいた。


「何かあったのか?」


普通に会話する時よりも近づくものだから、そう尋ねる。

仲間たちに内緒にしたい話があるのだと思ったから、声を潜めて。


「キスして」


自分は耳が悪くなったらしい。

ユーリは思わず聞き返したが、ジュディスが繰り返したのは同じ言葉。

聞き間違えたわけではなかった。

一瞬出たひきつった笑みを自分の中に押し込め、ユーリはジュディスを見つめた。

見たところ、普段の彼女と変わりない。

おかしなところなどない。

先ほどの発言を除けば。


「ジュディ、何かあったのか?」

「どういう意味なのかしら?」

「嫌なことがあったとか、悩んでることがあるとか」

「特にないわね」


一瞬だけ悩む仕草を見せた。

けれど、いつもの笑みを浮かべてそう答える。


「……そうか」


どちらかと言えば、ユーリのほうが悩んでいる。

いつもの余裕はどこへやら。

自覚症状があるのだから、周りから見てもバレバレかもしれない。


「ダメかしら?」

「ダメっつーか……」


何と答えるべきか。

上手い言葉が出てこず、苛立ちを抑えるように乱暴に頭をかく。

そんなユーリの姿を見つめ、ジュディスはやわらかく微笑んだ。

それは先ほどの発言を冗談だと笑い飛ばすようなものではない。


「……なあ、ジュディ」

「覚悟は決まったの?」

「覚悟っつーか……」


何故自分はここまで追い込まれているのかと考える。

いつの間にか数歩、後ずさっていた。

悔しさに背を押されたかのように、ジュディスの腕を引く。


「……ホントにどんな理由だよ」


ぶつかるくらいの近い距離で尋ねる。

すると、今まで空気を壊さなかったジュディスの瞳が揺れた。


「やっぱり、何かあるんだろ?」

「特にないわ」

「嘘だ」

「本当よ? あえて言うなら、証が欲しかったの」

「証……?」

「ええ。ちゃんと貴方に好かれているという証」


付き合い始めてどれくらい経つのだろう。

二人きりの時間など数えるくらいしか過ごしていない。

恋愛よりも優先させなければならないものが世界だから、仕方ない。

ジュディスもそれはわかっていたから、今まで何も言わなかったのだろう。


「ごめん」

「謝る必要はないわ」


視線を交わすことだけで、想いが伝わるわけじゃない。

遠回りの言葉で、彼女をつなぎ止めておけるはずがない。

こんな風に捕まえておかないと。

たまには素直な気持ちを言葉にしないと。

愛情を態度で示さないと。


「……ユーリ」

「好きだぜ、ジュディ」





kiss me





(アンケートより)



2010/10/14
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