ハッピーシュガーレディ




※ED後





分厚い本を抱いて歩くエステルの足は軽い。

世界が星喰みから解放されて、1年あまりが過ぎた。

混乱が続いていた世界は、新たな未来へ向かい歩き始めたばかり。

エステルはヨーデルの手伝いをするため、仲間たちと別れて城にいた。

寂しいと感じる余裕はなかった。

自分にできることを精一杯する毎日。

忙しい毎日だが、ふとした時に役立つのは広い世界を旅した時の経験だった。

少し落ち着いてきた最近では、思い出したように『寂しい』が溢れ出す。

それでも今、エステルの足が軽い理由。


「ユーリ!」

「久しぶりだな、エステル」


客室にいた彼は、かなり居心地悪そうに見えた。

客として招かれることがなかったのだから仕方ない。

先ほどより軽くなった足で駆け寄る。


「お久しぶりです! 元気です? 疲れてないです?」

「それは、オレの台詞」

「わたしは……。忙しいけれど、充実してますよ」

「そっか。なら、良かった」


ごしごしと頭を洗うように、少し強くユーリはエステルの頭を撫でた。

ユーリの手が離れた頭に手をやる。

くしゃりと乱れた髪が、何だか嬉しくてエステルは笑った。


「おーい。エステルー?」


ユーリはわざとらしく声を大きくした。

ぼんやりしていたわけではない。

ただ……。


「ユーリとお話できるのが嬉しくて」

「可愛い告白ありがとな」

「え? あ、あの、そそそんな意味じゃないですよ? えと、あの、その」

「動揺しすぎ」


ククッ……と抑えた笑い声が耳をくすぐる。

触れられる距離にユーリがいる。

一歩、一歩、少しずつ彼に近づいた。


「相変わらず、意地悪です」

「エステルが可愛すぎるから、つい構いたくなるんだよ」

「わたしはユーリのオモチャじゃないですよ?」

「だな。彼女だもんな」


ボッと音をたてて、エステルの顔が赤くなった。

パクパクと口を動かし、人形のようなぎこちない動作をする。

変わることないエステルの反応に、ユーリは目を細めた。

やはりオモチャにされているのではないかと疑う。


「ユーリ、今日はずっといられるんです?」

「ん? うーん……ずっとではないけど、この前よりは長くいられるな」

「それじゃ、いっぱい話ができますね」

「エステルが寝なきゃな」

「やっぱり、意地悪です……」


前回ユーリが会いに来てくれた時、(正規のルートからではなかったせいか)あまり時間がなかった。

忙しい中、わざわざ時間を作ってくれたのだから、仕方ない。

彼に会えたことに安心したのか、エステルはつい話の途中で眠ってしまったのだった。


「今日は大丈夫です。昨日ぐっすり眠りましたから」

「そっか。残念」

「何がですかっ!」


いつもより駆け足で過ぎた時間が寂しい。

話したいことは、まだまだあるのに。

思わず顔に出してしまっていたのだろう。


「じゃあ、またな」


次に会う約束の印だと言うように、エステルの頬に甘い口づけを落とした。





ハッピーシュガーレディ





(アンケートより)



2010/09/28
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