月光幻想曲




濃紺の空に浮かぶ太陽にも似た月。

夜を照らす真っ白な月。

この日リタは飽きることなく夜空を見上げていた。


「リタ」

「うっさい」


月を眺める横顔は、恋する乙女のように見えた。

それなのに、ユーリが名前を呼んだ途端、不機嫌になった。

ユーリは時間を考えて控え目に名前を呼んだのに。

黙って見ているほうが悪いと思って声をかけたのに。

リタもその視線には気づいていたが、不快なものではなかったから放っておいた。

再び訪れた沈黙。

それは夜の静寂へと溶けた。

リタは変わらず月を見上げ、ユーリも変わらずそんな彼女を見ていた。

時を刻む針は、日付を越えようとしている。


「なあ、リタ」


先ほどよりも控え目にユーリは名前を呼んだ。

今度は何も言わずに鋭い視線を向ける。



(眠たいから機嫌が悪い……とかいう理由じゃねぇだろうな、多分)



(絶対、あたしのことを子どもだと思ってるわね)



リタは眠たくないわけではなかった。

柔らかい布団でゆっくり眠りたい。

そんな欲求を抑えてまでここにいる理由。

リタはユーリから目を逸らした。


「……ヤキモチか?」

「はぁ!?」


大きな声だった。

リタは咄嗟に自らの口を押さえる。

もれた声は、響いたように聞こえた。


「あんた、何バカなこと言ってんの!?」


声は抑えられていたものの、迫力は失われていない。

本気で怒っているのか、ただ照れているだけなのか、ユーリには判断できなかった。


「ていうか、鈍い!!」

「何だよ、それは」

「鈍い。鈍すぎ。鈍感。バカ」


酷い言われようだ。

言った本人も反省した。


「……ユーリは、その」

「何だよ」

「やっぱり、ジュディスみたいなのが好きなんでしょ」

「……は?」


それはやはりヤキモチなのだろうかと考える。

リタはリタで言葉の選択を間違えたと落ち込んだ。


「なあ、リタ。オレ鈍いから、はっきり言ってもらわないとわからないな」


ニヤリと笑うユーリを見れば、わかっていて言っている。

リタはその余裕が大嫌いだった。


「自分で考えなさいよ。たまにはサボり気味な脳を使ったら?」

「使った結果がコレだぜ?」

「あんた、ホント意地悪よね」

「リタもオレには意地悪だよな」


薄雲に隠された月が再び輝きを取り戻すまでの間、沈黙に包まれた。


「で、リタはオレにどうして欲しいんだ?」

「どうもしなくていい。ただ、ちょっと、だけ……」


段々小さくなって消えてしまう言葉。

うつむいて口元を隠されたら、何を言ったのかわからなかった。


「リタ?」

「もう寝る!」


乱暴に閉められた扉。

部屋に残されたユーリは、先ほどリタがいた場所で空を見上げる。

白い月が、微笑むように光を放っていた。





ツキアカリ
ファンタジア





(アンケートより)



2010/09/26
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