青空不足




しとしとと静かに大地を癒す雨が降っている。

今日で5日目、だろうか。

強い雨ではないから、大きな被害は出ていない。

かと言って、日常生活の中でこれだけ降り続ける雨は、様々な問題を引き起こしていた。

ノックが聞こえ、フレンは窓から目を離した。

随分雨空を眺めていたようだ。


「失礼します。隊長にお会いしたいと言う少女を連れてきました」

「ありがとう」


騎士は一礼して部屋を出た。

連れてこられた少女・パティは、不機嫌そうな顔でフレンに近づく。


「退屈、なのじゃ」


背伸びをして、フレンとの距離を近づけて、パティはその言葉通り退屈そうな顔で言った。

苛立った様子があからさまに見えて、フレンは苦笑する。


「雨だからだね」

「そうじゃ。海へ行ってもつまらんし、空を見上げても悲しくなるだけなのじゃ」


ぺたんと踵を落とし、パティは床へ視線を向けた。

拗ねた子どものように見える。

確かに、こう毎日雨だと気分が滅入るだろう。


「そうだね……」


少しでも彼女の気分を上げる方法がないものかと考える。

せっかく頼ってきてくれたのだから、何かしらパティにしてあげたい。

力になりたい。


思考を働かせてみても、なかなかアイデアは浮かばない。

こういう場面で役に立てない自分を腹立たしいと思った。


「フレン、口を開けるのじゃ」

「……口?」

「ほら、早く」


目の前で彼女がしたように、口を開く。

コロンと舌の上を転がったのは、キャンディだった。

桃の香りがするキャンディ。


「パティ?」

「難しい顔をしておったから、元気の出る薬なのじゃ」


ニコッと笑ったパティと口の中に広がる甘さに、ほっと心が休まるような気がした。

もしかすると、パティはフレンを気遣って会いに来たのかもしれない。


「ありがとう、パティ」

「飴の1つや2つ、いつでもあげるのじゃ」


その言葉に元気づけられた。

そして、はっきりと気づかされた。

どうやら自分は疲れていて、休息を欲していたということに。

自身の体調管理(それは心も含めてだが)が出来ていなかった点を反省した。

パティに何かお礼がしたい。

さすがに天気を変えることはできないが、何か……。

ふと浮かんだアイディアに背を押され、行動する。

フレンはこのままではゴミになる紙を何枚も机に並べた。


「何を始めるのじゃ?」

「秘密」


続けて取り出したのは、青色の絵の具。

それを見たパティは驚いたように、けれど理解したと頷き、瞳を輝かせた。


「うちにも手伝わせてほしいのじゃ」

「もちろん、君の手も借りるよ」


二人は白い紙を青く染めていく。

何枚も何枚も。

青色の紙が床に広がった。


「あとは……」

「貼るだけじゃの」


手の届く場所へ、青い紙を貼っていく。

何枚も、何枚も。


「ちょっと足りなかったね」

「充分なのじゃ」


この部屋に広がる青。

天井ではなく壁に貼ったせいか、空というより海。


「気持ちのいい青なのじゃ」

「そうだね」

「のう、フレン」

「ん?」


出されたパティの右手は高く掲げられる。

フレンは頷き、彼女の手に合わせた。





青空不足





title thanks『カカリア』



2010/09/16
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -