2.小さな嘘をつく


時間を持て余していたヒューバートは、意味もなく町中を歩いていた。

すれ違う人々の顔に笑みが浮かんでいるのは、平和の証だろう。

内心では何を考えているかわからないから、一概には言えないが。

自分は今楽しくない顔をしているな……と客観的に見ながら足を進めた。

ふと視界の端に見知った女性を見つけた。

偶然……ではなく、無意識に探していたことを自分自身わかっている。

誰かに言うわけではないが、何となくこんな自分を見られたくなくてわざとらしい咳払いをした。

パスカルは雑貨屋の前で、落ち込んでいるように見える。

体を支えるようにガラス窓の側に右手を置いている。

時折頭がカクンと下を向く。

それは、ため息をつく姿に似ていた。

いくらなんでも、こんな場所で寝たりしていないだろうと思いながら、彼女の行動は予測不能なため静かに近づいた。


「パスカルさん?」

「っわ、弟くん? びっくりさせないでよ」

「すみません。こんな所で何をしているのですか?」

「別に、何も」


ここから見える位置に飾られているのは、安っぽい指輪。

専門店ではないから、誰でも手が出せる値段のものだろう。


「もしかして、欲しいんですか?」

「まっさかー。昔ね、もらったことがあるの」


思いの外、動揺を出してしまった。

パスカルは気づかなかったようで、そのまま話を続ける。


「永遠を形にするとか言ってたけどねー」


パスカルはヒューバートを見てニコリと笑った。


「形あるもので表現しようとするから、永遠って簡単に壊れるんだよね」

「そう……でしょうか」

「そっ」

「もう指輪は要らない、ということですか?」


うーん……と唸ってしまった。

結局、彼女がここで何を考えていたのかよくわからなかった。


「弟くんがくれるなら、すごく嬉しいかもね」

「……今すぐ買ってきます」

「あ、どうせなら、本物でね〜」

「……」


行ってらっしゃいと手を振るパスカルを見て、どうすればいいのかヒューバートは真剣に悩んだ。





小さな嘘をつく

普段なら見破れるものにでも、騙される。



2010/07/10



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