2.手をつないで離さない


太陽が沈み始めたそんな時間。

今日この町は、夕方から夜にかけて祭をするらしい。

そんな情報を入手したアスベルたちは、補給のための通過点だったここで、一泊することにした。

少しずつ人が増えていく。

道端に建てられた店の準備も整っていく。

そんな様を見ていると、ワクワクしている自分に気がついた。


「アスベル!」


ざわざわとした人々の会話を縫って聞こえてきた声。

空に向かって高く伸ばされた手。

人混みに飲まれそうになっている姿を見つけ、頬が緩んだ。


「ソフィ、どうしたんだ?」

「みんなで一緒に行こうって約束したのに」


ムスっとした顔で、文句を言った。

不機嫌な顔……というよりは拗ねた顔。


「ごめん。ちょっと散歩したくなったんだ」

「……知ってる。意地悪言いたかっただけ」


可愛い意地悪だと思った。

ソフィらしくないような気もするから、誰かの入れ知恵か。


「みんなの所へ戻ろう?」

「そうだな。もう少ししたら、祭も始まるみたいだし」


さりげなく、ソフィはアスベルの手を握った。

驚いて、弱い力で握られたソレを見る。

迷子にならないように、なんて言い出せば怒られると思った。

だから彼女から繋いできてくれた時、安心した。

握り返すことで、嫌ではないと伝える。


「ねえ、アスベル」

「何だ?」

「楽しみだね」

「ああ」


キラキラと輝かせるソフィの瞳は、あちらこちらに向けられている。

溢れる好奇心が形を作っているようによくわかる。

繋いだ手にも、力がこもっていた。

人混みを少し逸れたところに、今日の宿がある。


「ソフィ、そろそろ……」


彼女の手を放し、離れようとした。

が、ソフィは強い力でアスベルの手を握った。

絶対に離さないと言うように。


「……ソフィ?」

「ものすごく嫌なら、放す。でも……」

「嫌じゃないよ」


強張っていた彼女の表情が和らいだ気がした。





手をつないで離さない

一人にしないでと無音で叫んでいた。



2010/07/10



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