1.どうして、こんなに優しいの?
「エステル」
「はい?」
名前を呼ばれて振り向けば、手を差し出された。
その手が何を意味しているのか考える前に、右手が軽くなる。
「あ、あの、ありがとうございます」
買い物袋を持ってくれたのだと気づき、慌ててお礼の言葉を告げる。
「ん? 別にいいって。エステルに重い荷物持たせて、オレが手ぶらだったらフレンに怒鳴られる」
ハハハと軽く笑うユーリ。
さりげなく荷物を持って、歩幅も合わせてくれている。
(……子守り、みたいな感覚だったら嫌です)
エステルは足を止めて、ユーリの背中を見つめた。
彼は仲間として、見てくれているだろうか。
お荷物だと思っていないだろうか。
不安を心の中でぶつける。
実際に言葉にするのは、怖かった。
肯定されたら、どうすればいいのかわからなくなる。
きっと、今まで通りに過ごすことなんてできない。
幸せが逃げるとわかっていても、今はため息を我慢できなかった。
「エステル、どうしたんだ?」
思ったほど距離は開いていない。
それを埋めて、目の前に立つユーリ。
何かを言おうとするのだが、エステルは唇を噛むことしかできなかった。
「……もしかして、どうしてもコレを持ちたかったのか?」
「そんなんじゃありません」
「だったら……」
優しい手のひらが頭を撫でる。
「疲れてんだろ? 何か甘いモンでも食ってから帰ろうぜ」
「ユーリが食べたいだけじゃないです?」
「気のせいだ」
ちょっとしたことに、絶妙な距離感で触れてくれる。
エステルの胸に溢れる温かいものは、ユーリがくれた優しさ。
「あ、あの、ユーリ!」
「ん? 何が食べたいか決まったのか?」
その問いには首を振り、エステルは1つの疑問をぶつけた。
どうして、こんなに優しいの?
別に普通だろ?
2010/07/09