その言葉の真意は何?
穏やかな昼下がり。
イオンは部屋で書類に目を通していた。
内容はわずかに異なるものの、すべて預言に関わるものだった。
一人きりの部屋で、誰にも見せないような困った顔をした。
その直後に扉を叩く音。
「はい」
「お茶をお持ちしましたぁ」
元気な導師守護役の声は、イオンの緊張を和らげた。
気づいていなかったが、体を強張らせていたのだ。
考えすぎていたのかもしれない。
「イオン様?」
「あ、どうぞ」
返事をしなかったから、アニスはトーンを落として彼の名前を呼んだ。
「お疲れですかぁ?」
テーブルの上に運んできたものを乗せ、アニスは心配そうに、けれどわざとらしく子どもっぽい口調で言った。
「そうですね。少し疲れているのかもしれません」
「無理はダメですよぉ? イオン様の体が一番大切なんですから」
あたたかいお茶を注ぎ、アニスはイオンの前に置いた。
「ありがとう、アニス。いただきます」
息を吹きかけ、一口。
喉を通っていく少し熱いお茶は、氷を溶かすようにイオンの体に広がった。
あたたかい、心が落ち着く温度だ。
「とてもおいしいです」
「本当ですか? 良かったです」
「いつもありがとうございます」
照れくさそうにアニスは笑った。
彼女の笑顔に救われていると思う。
その小さな体にどれほどのものを背負っているのか、はっきりわからない。
けれど、軽いものではないとわかる。
イオンはたまに思う。
彼女を縛るいくつかのものから、足枷になっている何かから、解放する手助けはできないだろうかと。
「イオン様、本当に大丈夫ですか?」
「心配かけてすみません。体調は良いですよ。ただ、少し考えることが多くて」
「あたしにお手伝いできることなら、しますけど……」
「その気持ちだけで充分です。美味しいお茶に元気をもらいましたし」
カップは空になり、気分も随分軽くなっていた。
それはアニスの力だ。
「これ、片付けてきますね」
そのまま部屋を出ていこうとした彼女を呼び止める。
「アニス」
「はい。何ですか?」
イオンが手招きをすれば、アニスは近づく。
二人の距離は近い。
「ずっと僕の側にいてくれますか?」
「はい、もちろんです。……あの、イオン様?」
当然だと言うように頷く。
しかし、彼の言葉が何故かいつもより重かったから、妙な緊張感に包まれた。
疑問を含んだアニスに、微笑みを浮かべたままイオンは次の言葉を発しなかった。
その言葉の真意は何?
title thanks『瞑目』
2010/10/03