いつか想い出の片隅で



※ED後?






手を組んで、瞳を閉じる。

目の前の世界を瞼で隠してしまう。

暗くなった世界に映る深紅。

強張っていた体を解すように息を吐く。

それから目を開けた。


「……アッシュ」


その名前を呼んでも返事をする人はもういない。

現実はとても冷たく、思わず体を震わせた。

自分の腕をさすりながら、熱を取り戻そうとした。

一瞬だけ熱を放つ肌。

それは幻のようで、現実の冷たさを二度味わうこととなってしまった。


「アッシュ、覚えていますか?」


目の前から空へと声をかける。


「あの日、貴方がくれた言葉は、今も私を支えてくださっていますのよ」


ゆっくりと語りかける。

届かなくていい。

今はただ話したかった。

そうすれば、この気持ちを整理できる気がしたから。

だから、許して欲しい。

弱音を吐くことを。

泣きたくなる気持ちをほんのわずか表に出すことを。


「アッシュ」


名前を呼ぶ、何度も。

上手く言葉にできずとも、それだけで自分の気持ちを整理できるような気がした。


「アッシュ……」


『一生のお願い』を使いたい。

ただもう一度、頷いて欲しい。

ただもう一度、その声が聞きたい。

名前を呼んで欲しい。

叶わない願いであることはわかっている。

それでも、願い続けたかった。

涙がこぼれそうになり、唇を噛むことで耐える。

アッシュはこんなナタリアを望んでいないだろうから。

だから、耐える。

この先を、彼らが守った世界を生きていくために。


「アッシュ、いつか、私が貴方に会った時……」


泣くことを我慢するような不自然な呼吸になってしまった。

それを気にする必要はない。

誰も見ていないし、聞いていないのだから。


「いつかまた会えた時、貴方に誇れる私自身でいたいから……」


そのためにはどうするべきか、わかっている。

どうしたいのかもわかっている。


「ですから、がんばりますわ」


ナタリアは真っ直ぐに前を見据えた。

今は見守っていて欲しい。

がんばる背中を見つめていて欲しい。

それだけで、前を向いて歩んでいけるような気がした。





いつか想い出の片隅で





title thanks『たとえば僕が』



2011/10/25


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