小さな世界で、ピクニック




※本編少し前?
※アニメ設定?








「見つけましたわよ、ルーク」

「げっ。ナタリア……」


随分下から飛んで来た声に、ルークは木から落ちそうになった。

声をかけたのが、ガイならそう驚かない。

ナタリアがここに来ると思っていなかったのだろう。


「何度も言っていますが、何ですかその態度は。婚約者に失礼だと思いませんの?」

「だーかーらー、それは親が勝手に決めたことだろ」


その言葉にナタリアは少しだけ、寂しそうに瞳を伏せた。

けれど、すぐにそれは消えた。

いつものように、強気な瞳を見せる。


「降りて来てくださらないかしら」

「ちっ……」


舌打ち一つ。

ルークは軽やかに、ナタリアの側へと降りた。


「何だよ。お前は忙しいんじゃねぇの?」


皮肉がたっぷり込められた言葉を気にすることなく、ナタリアは微笑んだ。

手に持っていたバスケットをそっと持ち上げる。


「メイドに焼いてもらいましたの。一緒に食べませんか?」

「……分かったよ。付き合ってやる」

「ありがとうございます」


ナタリアがにこりと微笑めば、ルークは照れた顔を隠すように、そっぽ向いた。


「は、早くしないと、俺の気が変わるっつーの」

「はい」


柔らかい草の上に、敷き物を引いて、座る。

二人が座るだけで埋まるほどの小さな敷き物。

ナタリアはその上に、バスケットを置いた。

中には、クッキーとポット、そしてカップとナプキン。

紅茶を注いで、ルークに渡す。


「本当は、私が用意しようと思ったんですけど、止められてしまったのです」


どこか悔しそうに言って、クッキーを勧める。

ルークはそれを乱暴にかじった。


「ナタリアって、料理とかすんのか?」

「いえ。全く」

「……」

「ですが、私も出来るかと思いまして」


好奇心が輝く瞳から逃れるように、ルークは紅茶を飲み干した。


「おかわり、如何です?」

「あー……うん」


ルークはカップから立ち上ぼる湯気を追った。

空に向かって消えて行くソレを。


「ルーク?」


心配したナタリアの声に気づくと、顔を向けた。


「何だよ」

「いえ」


何かを言おうとして、首を振る。

その空気を感じ取ったのか、ルークはナタリアの目の前へクッキーを出す。


「せっかく焼いてくれたんだ。ナタリアが食わないと、感想言えないんじゃねぇの?」

「そうですわね。いただきます」


暫くの間、二人はその時間を楽しんだ。


「では、今日はこれで失礼しますわ」

「ああ。それで……」

「何です?」

「あれだよ。ほら。その……」

「殿方は、はっきりした方が素敵だと思いますわよ?」

「うっせー」


ぷいっと顔を背け、音にならない言葉をもらす。

勿論、ナタリアには届かなかった。

しかし、彼女は何かに答えるように、微笑んだ。


「じゃ、じゃあ、俺は帰るからな」

「はい」

「お前も早く帰れ。心配されるぞ」

「はい」


早口にそれだけ言うと、ルークは歩き出した。

メイド達が大騒ぎしているかもしれない屋敷の方へ。


「お付き合いくださって、ありがとうございました」


見えなくなった後ろ姿にそう告げ、ナタリアは歩き始めた。






思い出して欲しいあの言葉。



それは、別人のように変わってしまった貴方が、確かに私を励ましてくれた貴方だと思いたいから。



疑ってしまう自分を消したいから。



けれど、こうして側にいてくれるだけで、私は幸せなのです。






小さな世界で、
ピクニック




E N D



2008/10/11
移動 2010/12/11



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