××センチメートル




君を掴まえる方法だけを知りたかった。

瞳に映すのは、いつだって、紅。

その宝石のように美しく輝く瞳には、どんなに頑張っても入れない。

その絶望を何度味わったことか。





「ガイ、随分ため息の数が多いようですけれど、何か悩みごとですか?」

「ナタリア!?」

「そんなに驚くことは、ないでしょう? これでも、ちゃんと距離を取っていますわ」


確かに、ナタリアはガイの体が恐怖を感じる範囲外にいた。

気遣ってくれたその距離が、嬉しい。

と同時に、絶対的な距離を見せつけられたようで、ツラかった。


「ガイ、どうなさったの? あまり顔色がよくありませんわ」

「大丈夫だよ。君が心配するようなことじゃない」


言葉の選択を間違えた。

素直に表情に出した彼女を見ると、罪悪感に包まれる。


「あ、いや、君が頼りないとかそういう意味じゃなくて……」

「わかっています。どうして、私はすぐに顔に出てしまうのでしょう」


頬を両手で挟んで、ナタリアはため息をついた。

自らを責めるように二回叩く。


「ナタリア」

「あ、ごめんなさい……」

「君は悪くないんだから、謝る必要はないさ」


彼女を安心させるように、笑みを作る。

随分上手くなったと自負している作り笑い。

それは、彼女を落ち込ませるのにかなり効力があったようだ。


「そんな風に気遣わなくて構いませんわ。私、貴方のその笑い方は苦手です……」

「すまない」

「貴方には、もっと自然な笑顔が似合いますもの。わざわざ下手に笑う必要などありませんわ」


どうやら、ナタリアの前では安い仮面を被れないらしい。

それが悔しくて、嬉しくもある。


「ガイ?」

「ん……。ありがとう、ナタリア」

「何故、お礼を?」

「たまには、君に感謝の気持ちをね」



皆を平等に想う君に。

俺を気にかけてくれる君に。

特別な紅を想う君に……。






××センチメートル

越えられない壁のような距離。
けれど、“愛してる”は届く距離。




E N D



2010/05/03
移動 2010/12/11



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