14.別れる

※捏造?





新しい風が海や山や街を走り去っていく。

少し強い風になれば、大きな乱暴な音を奏で、人々を困らせていた。

悪戯好きな風が吹く今日。

ジューダスは一人、ゆっくりと足を進めていた。

自分が生きることなどできなかったはずの時間。

世界。

未来。

それをこんな風に感じられていることが、不思議だった。

嬉しいだとか、不愉快だとか、そんな気持ちは微塵もなく、ただ夢見心地で歩いているような不思議な気持ちだった。

今日はやけに大人しいシャルティエをそのままに足を進める。

目的地などなく、ただこの世界の呼吸を感じるように歩いていた。

不意にジューダスの足が止まった。

金縛りにでもあったかのように、多少不自然に。

庭先で花の手入れをしている女性。

そう珍しい光景ではなく、よく見る光景。

ただその後ろ姿に視線を奪われる。

『リオン』として生きていた記憶の中に存在する面影。

気がつけば、懐かしい名前を口走っていた。


「マリ、アン……?」

「はい、どちら様ですか?」


振り返ったのは、間違いなく彼女だった。

ジューダスの知る彼女よりも年上の女性。

幸せな年のとり方をしたのだとわかる微笑み。

一瞬息が詰まったが、すぐに自分を取り戻しややうつむいた。

仮面をかぶっているのだが、彼女と顔を合わせることを無意識に避けた。


「綺麗な花だな」

「そう言っていただけると嬉しいです。少し育てるのが難しい花で、苦労したんです」


ふふっと笑いながら、愛しそうに花に触れた。

その指先を思わず凝視してしまう。


「あの、貴方は……」

「僕は通りかかっただけだ」

「そうですか」

「失礼する」


ジューダスは彼女に背を向けて足を進める。


「あの」

「何だ」

「とても懐かしい感じがします。貴方は私がよく知っている人に似ています」

「……そうか」


それだけ言うと、ジューダスはもう振り返らなかった。

しばらく歩き、彼女の姿が見えなくなったところで足を止める。


「さよなら、マリアン。どうか幸せな人生を」


こんな風に彼女に別れの言葉を告げられる日が来るとは思わなかった。

多分、いや間違いなく今自分は幸せなのだ。

ジューダスは仮面の下で柔らかく笑った。






わ か れ る



2011/11/01




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