104.探す

噴水広場で待ち合わせをするのは、いつものことだった。

賑やかな人々の声が溢れる噴水広場は居心地がよい。

時折現れるフェロモンボンバーズも決して不快ではない。

気分がいい今は、何を見ても微笑ましくなる。

赤ん坊をあやす母親も、ケンカする幼い兄弟も、仕事の失敗に肩を落とす男性も、夕飯のメニューに悩む女性も、すべての人が幸せの象徴に見えた。

そんな景色はノーマの心を温かくする。

誰だってそうだろう。

余程ひねくれていない限り、幸せな街の風景は良いと思えるはずだ。


「ノーマさん」

「ジェージェー、遅すぎ」


ベンチから立ち上がったノーマは、右手の人差し指をジェイに向けた。

向けられた指を気にすることなく、彼は歩み寄った。


「ぼくにも色々事情があるんです。ノーマさんと違って忙しいんです。いきなり呼び出さないでください。というか、来ただけ……」

「ジェージェー、オブラートって知ってる?」

「知らないと思いますか?」


このやりとりは、何となく時間の無駄だとノーマは思った。

今は時間が惜しい。


「とりあえず、行くよ」

「ちょっと、ノーマさん!?」


驚いたと声に乗せたジェイの声を聞きながら、ノーマは足を進める。

最初は重かったジェイの手が軽くなり、自然と隣を歩いていた。


「もう少し話を聞かせてもらえませんか?」

「話? 何の? ……じょ、冗談だってば。ジェージェー顔怖いよ?」

「ぼくはあまり時間がないんです」

「それなのに、会いに来てくれたじゃん」

「それは、ノーマさんが……!」


ニヤニヤと可愛げのない笑い方をすれば、ジェイは思い切り顔を背けた。

あんまり意地悪するものではない。

ノーマは彼を呼び出した理由を話すことにした。


「ちょっと気になる噂を聞いて、欲しくなっただけ」

「……話の大事な部分をはしょりすぎじゃないですか?」

「目的地は水晶の森。目的は七色硝子。さあ、レッツゴー!!」

「ノーマさん!!」


七色硝子、そう呼ばれる水晶を手に入れた二人は幸せになるという。

たまには、可愛らしい理由で宝探しをしてもいいのではないかとノーマは思った。

正当な理由もただの文句も、ジェイの口から聞く言葉は今のノーマには幸せそのものだった。


「さあ、張り切って探すよ」

「ぼくは帰りたいです」






さ が す



2011/09/27



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