29.抱きしめる

※時間軸不明
※おそらく捏造






さわさわと草が擦れ合う音。

湖の水面を波立たせる音。

甘い花の香りを漂わせる音。

様々な音を奏でる風は、まるで戯れるようにセネルとステラの周りを舞っていた。


「今日も気持ちいいわね」

「ああ、本当だな」


クスクスと笑うステラを近くで見ていることができれば、セネルはそれを幸せと呼ぶのだと思った。

彼女の横顔が好きだ。

もちろん好きなところはそれだけではない。

たとえば、セネルを呼ぶステラの声。

たとえば、不安に飲み込まれそうな時にそっと握ってくれる優しい体温。

たとえば……。


「セネル、どうしたの?」


間違いなくずっと見つめていたせいだ。

ステラは困ったように眉尻を下げ、セネルと向かい合った。


「どうもしていない。ただ……」

「ただ?」

「笑わないか?」


セネルのその声が不安げに聞こえたのだろう。

ステラはクスクスと笑ったあとで答えた。


「笑わないわ。聞かせて」

「ステラとこうしてることが好きだと思ったんだ」

「私も好きよ」

「……これを幸せって呼ぶのかな、とか考えていたんだ」


ステラは目を丸くした。

わかりやすく驚きを見せた瞳は、穏やかな眼差しへと変わる。


「私も幸せよ、セネル」


彼女の声は何よりも優しく彼の中に入ってきた。

そっと胸にとどまる彼女の声。


「ステラ」

「何?」


一言謝罪を入れようかと思ったが、何も言わずに抱きしめた。

彼女の匂いがふわりと舞う。

体全体で彼女を感じることができる気がした。


「セネル、どうしたの?」

「掴まえておきたくなったんだ」

「私は貴方を置いてどこかに行ったりしないわよ?」

「……」


少し力を込める。

耳元でステラが息を飲む声が聞こえた。


「セネル」

「……ずっと、俺の傍にいてほしいんだ」

「ずっと一緒にいるわよ。貴方が私を必要としてくれる限り」


ステラの手がそっとセネルの背中に回された。






だ き し め る



2011/09/13




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